蟹江杏アトリエ日記vol.4 森の恵みの正しい分け方

蟹江杏

あんずの花里物語

思わず微笑んでしまうリリカルな画風で大人気の蟹江杏の世界観を、作品とエッセイでお届けします。

「おはなし」
 

意外に思われるのですが、私は料理が好きです。
軽井沢の森のアトリエ生活といえば、絵を描くほかは、美味しい物を作って食べるのが一番の楽しみです。

春の朝は、花鋏とビニール袋片手に野草を摘み摘み散歩して、その日のメニューを考えます。
たらの芽やうどはもちろんですが、少し山を降りると、可愛いつくしんぼにも出会えます。

山蕗がまだ若くて柔らかいうちに作る佃煮の苦味も絶品です。
そんな生活をしていると、私たち人間は自然の恵みを頂戴して生きているんだなあ……森に感謝だなあ……

今日食べるために必要な分だけ収穫して頂こう、欲張ってはいけないなあ……なんて、つくづく思えるのです。

森の私のアトリエの庭には大きな山椒の木や、栗の木があります。
葉も香り高く美味ですが、なんと言っても私は採れたての山椒の実で日本酒を呑むのを毎年心から楽しみにしています。

ですが昨年、3本ある山椒の木のどれもが、
実つきが悪く葉もなんだか少ない気がしました。
よく見ると、誰かがむしっているような跡があります。

どこのどいつがうちの山椒の実をとっているのか、見張ってやろうと思い、
ある日作業机を窓から外が見える場所に移動して、絵を描きながら山椒の木を観察していました。

結果、犯人はすぐにわかりました。
毎朝、私を起こしてくれる尾っぽが青緑色の可愛らしい小鳥です。
素敵な声でモーニングコールしてくれるので、私としては彼らと仲良く共存しているつもりでした。

なのに、家族ぐるみでやってきて、
私の大切な山椒の実を木が丸裸になる程、
無断でほとんど食べちゃってただなんて!

こうして悔しがっている間も、小鳥達は悪びれることなく、美味しそうに葉や実をくちばしでついばんでいます。
私はたまらず窓を開けて大きな声で言ってやりました。

「ちょっと! うちの山椒の木なんですけど……。
そもそもここは、わたしんちなんだけど!食べないでもらえますか⁉」

小鳥達は普段だったらちょっとした物音でも、いっぺんにいなくなるくせになぜかこの時に限って素知らぬ顔で実を食べ続けています。

「何、無視してんのよ! それは私の山椒ですよ!!」
ともう一度大きな声で叫びました。

すると、なんと、その内の一羽が、いきなり飛んできたかとおもうと、私の顔の前で止まり、そのまま空中でバタバタとホバリングさせながら、
プップッピピピヨピヨピヨピヨと
何かすごい勢いで反論してきたのです。

私はピンときました。ああ、なるほど。
「貴女だって、森の野草を勝手に採って
食べてるじゃないか、おあいこだよ」
と言いたいわけだな……。

でも、でもですよ、
私は、確かに野草を森から頂いておりますが、決して欲張らず、感謝の気持ちを忘れずに頂いていますから!!
あなた達みたいに独り占めしようとなんてしてません!

けれど、何しろ小鳥相手ですから議論は平行線です。
結果、私はなすすべもなく、昨年は、ほとんどのうちの山椒の実を小鳥達に強奪されたのです。

諦めきれなかった私は、
わざわざ遠くの森の中まで行って、
野生の山椒の実を採取して塩漬けにし、
お酒の肴にしました。

そして、秋。
アトリエの栗が、またもや誰かに食べられちゃってる様子。
楽しみにしていた山栗ご飯……。
なぜか、うちが猿の通り道にされてしまったようで……。

人んちの栗を貪ったあげくに、
それを注意した私をすごい形相で威嚇する山猿の親子達を見た時は、
「もうしょうがないか、いいよ、いいよ、
山椒も栗もみんなにあげますよ〜」っと、
笑ったのでした。

「おはなし」

タイトル:「おはなし」
サイズ:180×130mm
シート価格(税込):27,500円
額装価格(税込):38,000円

※別途、送料がかかります。
販売数量: 5枚限定
お届けの目安:約3カ月



蟹江杏コレクション

執筆者プロフィール

蟹江 杏(かにえ・あんず)

画家。東京生まれ、埼玉県飯能市の「自由の森学園」を卒業。「NPO法人3.11こども文庫」理事長。ロンドンにて版画を学ぶ。美術館や全国の有名百貨店など、国内外で多数の展覧会を開催。新宿区・練馬区・日野市をはじめ各地の都市型アートイベントにおいて、こどもアートプログラムのプロデュースを手掛ける。東日本大震災以降は、「NPO法人3.11こども文庫」理事長として、被災地の子ども達に絵本や画材を届けたり、福島県相馬市に絵本専門の文庫「にじ文庫」を設立するなどの活動を行う。また、2020年から「SDGs JAPAN」と連携し、アートやアーティストがどのようにSDGsに貢献できるかを、様々な分野のアーティストとともに模索、牽引していく。

https://www.atelieranz.jp

蟹江 杏


投稿順 新着順