第一回 荒野とパルコ

片岡直子

いないようでいてくれる

 人類が言葉を持つ以前の状態を「ピュシス」と呼ぶらしい。言葉を持った人類は何が変わったのか?言葉は人生の感情を全て言い表せるのか?はたまた仮そめの記号なのか?
「H氏賞」受賞詩人が紡ぐ言葉世界を、トカイナカの風に吹かれながら……。

 

荒野とパルコ


パルコのジャグジーが お風呂
ヨガから 五分で帰る家 昼寝をして
家事を少し

騒音の十五時 踏み出すには勇気が必要
魂が震えるには 少しの恐怖も 北東の森
雑木林 枯葉の道 三富新田 真っすぐの 時には
村の十字路風 数軒の農家 解体業者の 忘れられた車
整地され放置された区画 好きなラジオに伴走してもらって
送稿の午後 雑木林の奥 二十年前の道路地図で 眺めていた
縦長の公園 ここまで車で十分 がらんと広がる 運動公園
駐車場には たくさんの車 リモートワーク中?

「車上荒らし注意」という看板 降りて 少しだけ
グラウンド 手前に座る子供 サッカーの 女の子?
雑木林の中へ続く 散策路 今度歩いて

帰り道 三六〇度 開かれた
景色の向こう 日没間近の富士 刷毛の雲
果てしない鉄塔 丁寧に生きると日々は まだ続く
うつむいて今日も 介護をする あの人へも
届けたい 心に透き間 充満しているより
心に 空白を 持ちたくて

荒野 なんて言っている ワンダーランド
雑木林の外 広大な畑 牛舎まで 暮らしてきた
人びとの 日常 ずっと続く
夕焼けの 野中の細い道

 

イラスト:しっぽ
イラスト:しっぽ

執筆者プロフィール

片岡直子(かたおか・なおこ)

1961年生まれ、入間市出身。東京都立大学卒業。英国系製薬会社勤務の後、埼玉県と山形県の中学校国語科教諭を経て詩人・エッセイストに。第46回H氏賞受賞。詩集に『晩熟(おくて)』『曖昧母音』(いずれも思潮社)、『産後思春期症候群』『なにしてても』(いずれも書肆山田)他、エッセイ集に『ことしのなつやすみ』(港の人)、『おひさまのかぞえかた』(書肆山田)。朗読CD『かんじゃうからね』。青森県~山口県で詩の出前授業。詩とエッセイの講座を20年、各紙誌書評を16年間担当。2018年にラジオ放送局「FMNACK5」開局30周年「埼玉あなたの“街”自慢コンテスト」の川柳の選考をして以来、県内市町村パンフレットを眺めるのが愉しくなり、ほぼ持っています。



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