いないようでいてくれる

人類が言葉を持つ以前の状態を「ピュシス」と呼ぶらしい。言葉を持った人類は何が変わったのか? 言葉は人生の感情を全て言い表せるのか? はたまた仮そめの記号なのか?
「H氏賞」受賞詩人が紡ぐ言葉世界を、トカイナカの風に吹かれながら……。

第二十回 ツーリング通勤 ~会いたい誰かに会える街~

片岡直子

 

駅の近くの久米には 伯母の家があり 庭には二羽鶏がいて
お洒落なクッキー 四角い缶  文化は従姉妹が 教えてくれる
同じ住所 久米の水天宮 参拝した際  ご町内? その鬱蒼とした

テニスコート横には プール 後ろは 北野天神社の杉林 指導者の
いなかった 課外テニス部の顧問 日焼けを許していた 中型のオートバイ
夏の帰宅後は ガレージでホース シートに缶ビール 細部を磨く布を手にして

往復は 畑中の道 斜め道 昔道 教えてくれたのは父 境界のお茶
所沢には田んぼがほとんど無く 巨樹もたいていは 細長い 水害の多かった
埼玉 所沢は旱魃 「所沢の火事は土で消す」「所沢へは娘を嫁にやるな」 南端の
勝楽寺村を水没させた 狭山湖の水は 東京都のため 小麦から作る 焼き団子
うどんなど あとは サツマイモ 北東の中富神明社「いも神様」 乾いた
土地の象徴 三富新田の存在感  蚊取り線香を腰に下げ 畑へ向かう
お爺さん 炎天の作業  くぬぎ山の平地林 森が 広すぎて
アプローチの方法は まだ 見つからない

鳩峯八幡神社から南下 松が丘 かつては遠足の写真の残る 大谷田圃
遊園地に? クジラのはく製が? 展示された頃  鉄道が開く 高級住宅地
不便さと高齢化 リストに入っている 道を 二つ渡り「多摩湖自転車歩行者道」
五年前まで 小手指陸橋で丹沢を眺めてから 小平や東大和市へ 講座に
通った 脇の道  玉湖(たまのうみ)神社 狭山富士

邦楽連盟 「ところざわの唄」 作詞した頃 まだ 小さくて 子供たち 
ミラに乗せ 谷戸を巡ったり 小野家住宅 荒幡の富士 西武球場近くの柳瀬川
「ミヤコタナゴの自生地」 看板を見つけ  ようやく 三日目に 旅の 終わり
七五調とか 五七調とか  そういえば 従妹になった お琴の奏者 あの頃
所沢にいらした かしら? 今朝も 待っていた鳩がやってきて 所沢は
なんとなく  会いたい人  よく似た誰かに 会える街

堀口天満天神社 糀谷八幡宮 比良の丘 狭山湖外周道路から 八幡湿地
最後に向かうのは 小手指中学校 正課マラソンクラブ 何度も訪れた
小手指ヶ原古戦場 白旗塚 上まで登って ぐるりを撮影 下ろうと
階段横の 葉が浮いて  斜面を お尻で滑る おまけつき


「いつかまたこの場所で」©しっぽ

執筆者プロフィール

片岡直子(かたおか・なおこ)

1961年生まれ、入間市出身。東京都立大学卒業。英国系製薬会社勤務の後、埼玉県と山形県の中学校国語科教諭を経て詩人・エッセイストに。第46回H氏賞受賞。詩集に『晩熟(おくて)』『曖昧母音』(いずれも思潮社)、『産後思春期症候群』『なにしてても』(いずれも書肆山田)他、エッセイ集に『ことしのなつやすみ』(港の人)、『おひさまのかぞえかた』(書肆山田)。朗読CD『かんじゃうからね』。青森県~山口県で詩の出前授業。詩とエッセイの講座を20年、各紙誌書評を16年間担当。2018年にラジオ放送局「FM NACK5」開局30周年「埼玉あなたの“街”自慢コンテスト」の川柳の選考をして以来、県内市町村パンフレットを眺めるのが愉しくなり、ほぼ持っています。


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