第五回 心の街と 通う街

片岡直子

いないようでいてくれる

人類が言葉を持つ以前の状態を「ピュシス」と呼ぶらしい。言葉を持った人類は何が変わったのか? 言葉は人生の感情を全て言い表せるのか? はたまた仮そめの記号なのか?
「H氏賞」受賞詩人が紡ぐ言葉世界を、トカイナカの風に吹かれながら……。

 

心の街と 通う街


鳥は 鳴いて 私は 歩く ラムサール条約 遊水地
訪れる度 北川辺と 谷中村のことを 考える かつて 加須は
山形と実家の往復 IC 藤とイチョウ 玉敷神社 渡良瀬遊水地も知らず
ミラは走り 騎西高校も現役で 戻るときには 楽しそう 山形から
長い距離 乗ってきた頃には 泣き出しそうな息子を 見守った 

男体山 白根山 堀兼神社から望むより ずっと迫って 金曜日
穏やかな昼 水の音 たふたふと 繫みから二羽のチョウゲンボウ? 条約に
守られ もっと大きな鳥 水面すれすれ 滑空する 何事もされるままの私
治水 という発想 かけ離れ 度重なる洪水の後 考えられた結果を前
県境と生活圏 異なる 北川辺 五霞町のことも 思ったり

カスリーン公園から コシヒカリ 埼玉大橋を渡るとき 感謝を抱く
加須市北川辺のお蔭 遊水地に出会えた けれど 最初の候補地 運命の流れ
重すぎて 愛着がもっと わいて 資料館 小学校のお墓 故郷を守った人
子どもたちの声 泣きそうになり 黄金色 頬揺らし 麦秋至
現金支払いのスタンド 給油をした

たっぷりの水 放っておいてくれる 隠れたら 見つからない
車で走り 新赤麻橋 撮り鉄? 撮り鳥 お年寄り 野木ホフマン窯
野渡橋も復活し ヴィヴィッドなキジ 鳴いて すっと姿を消す ヨシの原
東京ドーム×七百 今年のヨシ焼きは 中止 車を蔽う 三メートル丈
湖は鏡 歩きとおす人 中の島 谷中村 遺跡を守る会 お便り
失われた 戸数 人の数 公害と 治水 集合の重なりの

矢田川沿いの 駐車場 波打つ湖面 ウィンドサーフィン 水曜日 
薄く曇り 引き上げて 約束の十五時 運転席 風の音 鳥の声 
録音をした 北エントランス 帰りたくない 思わせてくれる
豊かに生きて 今の異変に 気づけるように
耳を 澄ませて これからと 今日と 


「一息」©しっぽ

執筆者プロフィール

片岡直子(かたおか・なおこ)

1961年生まれ、入間市出身。東京都立大学卒業。英国系製薬会社勤務の後、埼玉県と山形県の中学校国語科教諭を経て詩人・エッセイストに。第46回H氏賞受賞。詩集に『晩熟(おくて)』『曖昧母音』(いずれも思潮社)、『産後思春期症候群』『なにしてても』(いずれも書肆山田)他、エッセイ集に『ことしのなつやすみ』(港の人)、『おひさまのかぞえかた』(書肆山田)。朗読CD『かんじゃうからね』。青森県~山口県で詩の出前授業。詩とエッセイの講座を20年、各紙誌書評を16年間担当。2018年にラジオ放送局「FM NACK5」開局30周年「埼玉あなたの“街”自慢コンテスト」の川柳の選考をして以来、県内市町村パンフレットを眺めるのが愉しくなり、ほぼ持っています。



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