いないようでいてくれる

人類が言葉を持つ以前の状態を「ピュシス」と呼ぶらしい。言葉を持った人類は何が変わったのか? 言葉は人生の感情を全て言い表せるのか? はたまた仮そめの記号なのか?
「H氏賞」受賞詩人が紡ぐ言葉世界を、トカイナカの風に吹かれながら……。

第十七回 森に聴く ~ 石戸宿 きたもと テラピーロード ~

片岡直子

五月十一日 石戸宿 再訪
道端に 大きな木と祠 石碑 車を停める
右へ曲がると 鉄砲宿「かまくらみち」 猿田彦太神 碑は芭蕉

自然観察公園 足を踏み入れ 歩き始める 何かが違う 空気の気配?
道端には 「セラピーロード」の看板 そんなもの かしら? 橋を渡り
ウグイス コウホネ シュレーゲルアオガエルの カスタネット  本当に
必要な風景 迎えてくれる 沼を巡り 一時間ほど エドヒガンザクラの倒木
石戸城の一夜堤 含む公園  秩父で出会えた キツネまで いるという

遠い季節 フィトンチッドの詩を描いた 上松の赤沢自然休養林
三頭山の「大滝の路」 白神十二湖「青池」 妙高の「苗名滝」
小谷村「栂池自然園」……  公園は かつて遊んだ町と同じ 
森林セラピーの活動を している という

町川柳 心を惹かれたパンフレット 扉を開くと そこに
さっき 歩いて来た 木道の風景  800年の 石戸蒲ザクラ
トマトカレー グリコピア 給食歴史館 パーマ大佐も

大人になって 地図子と呼ばれた
小学校の三~四年 転校していった 戸水直晴くんたちと
地図帳を凝視 地名当ての遊び 男の子たちは「下呂」なんて叫ぶ
中学校の地理は 苦手だったはず なのに五街道 中山道の「山」の字に
にんべんが無くても「せん」と読む  五つの脈 拡がって

江戸の初めまで 鴻巣宿が存在した本宿村 同じ名の 町が南にあったので
北本宿 やがて きたもとへ  木霊が語りかけてくる多気比売神社&宿場跡の桶川と
華やかな人形&川幅花盛りの鴻巣との間  静かに佇む 石戸宿 きたもとへ
水曜日には また 出掛けてゆく


「明日」©しっぽ

執筆者プロフィール

片岡直子(かたおか・なおこ)

1961年生まれ、入間市出身。東京都立大学卒業。英国系製薬会社勤務の後、埼玉県と山形県の中学校国語科教諭を経て詩人・エッセイストに。第46回H氏賞受賞。詩集に『晩熟(おくて)』『曖昧母音』(いずれも思潮社)、『産後思春期症候群』『なにしてても』(いずれも書肆山田)他、エッセイ集に『ことしのなつやすみ』(港の人)、『おひさまのかぞえかた』(書肆山田)。朗読CD『かんじゃうからね』。青森県~山口県で詩の出前授業。詩とエッセイの講座を20年、各紙誌書評を16年間担当。2018年にラジオ放送局「FM NACK5」開局30周年「埼玉あなたの“街”自慢コンテスト」の川柳の選考をして以来、県内市町村パンフレットを眺めるのが愉しくなり、ほぼ持っています。


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