いないようでいてくれる

人類が言葉を持つ以前の状態を「ピュシス」と呼ぶらしい。言葉を持った人類は何が変わったのか? 言葉は人生の感情を全て言い表せるのか? はたまた仮そめの記号なのか?
「H氏賞」受賞詩人が紡ぐ言葉世界を、トカイナカの風に吹かれながら……。

第十二回 森に溺れる

片岡直子

 

ジュピター 好きな娘も 大人になって 私はつきのわ
兎の御寺 駅名を知った時 お洒落で 目新しいネーミング?
思ったけれど お向かいには 月輪神社 古墳群 多すぎる淡洲神社
谷津の里 あの風景は? 駅の北東 学校橋 羽平橋 高橋の北 未舗装の道
大きなトラックも通り過ぎる 留まっていれば 取り残される お気に入り
夏 草の間で虫の声 昨日は 長い影法師  閉鎖 閉館
曜日の限定 できない 日々から 旅は 始まって

秋の中央口 北へ向かう 木の階段 緩い坂 柳谷沼 橋を渡る
落ち葉の道 上っていく 森林ってやたらと木を描く そのことのように
町の十分の一くらい? 入れなかった日々のこと 歩き過ぎを 警戒して乗る
バスの車掌さん 木々の名前 おすすめの季節と 立ち退いたのは三軒だけ
話してくれる 遠足かしら サイクリングの中学生 少し避けて バスを
選んだ でもコースは分離 大丈夫だったのかも 森の デザイナー
初めて訪れたのに 知らない間  心の淵へ 降りてゆく

冬が始まり 南下して からからの 葉裏 あざみくぼ沼 かげの道
いくつもの ルート 公園の外はフェンスで囲われ もしかしたら 鳥をのぞく
動物たち 排除 されている?  そんな風に守られた森 肌に一枚 のしのしと
古鎌倉街道 「南口まで 四十分はかかります」 弱虫だから そのままの
山では無理なんだ 管理された木々の中 「山林に自由存す」?
ちょっと 違う  時間の目安が 勇気をくれて

麓の 伊古乃速御玉比売神社 参拝しても登らなかった 二ノ宮山 嵐山の工業地帯
山を隔てず 眺められるか 確かめに 急坂を歩いて八分 頂上へ あと数歩
友達から ライン電話 ビデオに切り替え 風景を くるり三六〇度
ベッドの彼と 風に取り巻かれる 私の画像 並んでいる


「静かに」©しっぽ

執筆者プロフィール

片岡直子(かたおか・なおこ)

1961年生まれ、入間市出身。東京都立大学卒業。英国系製薬会社勤務の後、埼玉県と山形県の中学校国語科教諭を経て詩人・エッセイストに。第46回H氏賞受賞。詩集に『晩熟(おくて)』『曖昧母音』(いずれも思潮社)、『産後思春期症候群』『なにしてても』(いずれも書肆山田)他、エッセイ集に『ことしのなつやすみ』(港の人)、『おひさまのかぞえかた』(書肆山田)。朗読CD『かんじゃうからね』。青森県~山口県で詩の出前授業。詩とエッセイの講座を20年、各紙誌書評を16年間担当。2018年にラジオ放送局「FM NACK5」開局30周年「埼玉あなたの“街”自慢コンテスト」の川柳の選考をして以来、県内市町村パンフレットを眺めるのが愉しくなり、ほぼ持っています。


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