いないようでいてくれる

人類が言葉を持つ以前の状態を「ピュシス」と呼ぶらしい。言葉を持った人類は何が変わったのか? 言葉は人生の感情を全て言い表せるのか? はたまた仮そめの記号なのか?
「H氏賞」受賞詩人が紡ぐ言葉世界を、トカイナカの風に吹かれながら……。

第十四回 アーバン・ルーラル・パストラル
~繰り返すのかなとかいなか~

片岡直子

『みみずのたはこと』蘆花こと 徳冨健次郎 青山高樹町から
農生活の為 移り住んだ千歳村 京王線敷設の槌音を「東京が日々攻め寄せる」
「儂を此巣から追ひ立てる退去令の先触」かと受け止める

ルーラル・パストラル 県北から秩父へ入ってみたかった 春 
川越大宮岩槻春日部宮代久喜加須羽生行田熊谷深谷寄居長瀞皆野秩父横瀬飯能日高入間の
鉄の旅 見たかったもの 車窓から見えるわけではないけれど 多くの公園を通る
パークライン 野田線の改札 県庁所在地 長閑な空気に ほっとする

古い町並み 久伊豆神社 人形の町 ほんわか城址の 岩槻や
期間限定 サトーココノカドーも出現した 春日部は 開かれ過ぎて?
和戸教会 建築の町が 古びてくると ラピュタになったりもする宮代町と
こんもりした森にしか見えなかった らき☆すたの 鷲宮神社

秩父鉄道の始発 羽生駅では 建福寺の 太田玉茗 住職をしながら詩人 ではなく
羽生に戻り 住職になって十年で 筆を折る「彼が文学をやめ、田舎に帰ったのは当時の
風潮の田園生活への憧れもあずかっていた。そのルーツは国木田独歩の『武蔵野』にあっ
た。あるいは農村に移住し厳格な宗教活動を始めたロシアのトルストイの影もあった」
(松本鶴雄著『さきたまの文人たち』(さきたま出版会))青縞の真四角の布の下がる
コンコース 千曲川をスケッチして戻った藤村と 戻らなかった 玉茗のこと

行田市駅から 足袋蔵の地図 先に車で訪れていた前玉神社は 古墳の上に建つ
林を抜け さきたま古墳群 何の気なしに 歩き始める 昔は権力の象徴みたいで
苦手だったけれど ほっこりしたかたちは 私も歩かせ 電柱の「埼玉」の
住所の表示 アーバン・ルーラル 遡ったらここが 真ん中?

熊谷の 広い牧場 巨大な白牛 長瀞の白鳥氏 石田牧にしても
古代の御牧 芥川の新宿の牧場 独歩の東京は 牧場の渋谷 いつか東京が
草原に返る日を 思い描く 建物が ヒトが 無くなっても 草たちは
池袋線 武蔵野は小手指ヶ原 三富の牛のいる方向へ 歩いて帰る


「心に焼き付けて」©しっぽ

執筆者プロフィール

片岡直子(かたおか・なおこ)

1961年生まれ、入間市出身。東京都立大学卒業。英国系製薬会社勤務の後、埼玉県と山形県の中学校国語科教諭を経て詩人・エッセイストに。第46回H氏賞受賞。詩集に『晩熟(おくて)』『曖昧母音』(いずれも思潮社)、『産後思春期症候群』『なにしてても』(いずれも書肆山田)他、エッセイ集に『ことしのなつやすみ』(港の人)、『おひさまのかぞえかた』(書肆山田)。朗読CD『かんじゃうからね』。青森県~山口県で詩の出前授業。詩とエッセイの講座を20年、各紙誌書評を16年間担当。2018年にラジオ放送局「FM NACK5」開局30周年「埼玉あなたの“街”自慢コンテスト」の川柳の選考をして以来、県内市町村パンフレットを眺めるのが愉しくなり、ほぼ持っています。


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