第十回 トカイナカの果実

片岡直子

いないようでいてくれる

人類が言葉を持つ以前の状態を「ピュシス」と呼ぶらしい。言葉を持った人類は何が変わったのか? 言葉は人生の感情を全て言い表せるのか? はたまた仮そめの記号なのか?
「H氏賞」受賞詩人が紡ぐ言葉世界を、トカイナカの風に吹かれながら……。

 

トカイナカの果実


アプローチは 県30号  学頭沼の 越生神社へ ご挨拶
今朝も川の広場から 光ちゃんの母校を見上げ 都幾川を歩く 人生で一番
はにかみ屋さん バイクと電車で通学 あの頃から大人のよう ハスキーな声
同窓会でも 話したい人は聞き役ばかり  もう行かないけれど 光ちゃんには
逢いたい 逢いたい人は 参加しない そんな感じ 犬を連れた女性 対岸の
木の根元 ずっと座るお年寄り 田んぼ&茶畑&桑畑の中 生まれた私でも
疾うに 失われた  そう 思っていた 川沿いの道

旦那様が東洋大学出身の夫妻 名字に惹かれ 県道を上る ハウスの裏の駅は
なぜ 真似をしてしまったのか 販売所はオリジナルの風格 玉川橋の土木遺産と
同じプレート 滝の鼻橋は わぁっと 通り過ぎ  七重川 砂防堰堤群 現役
というところ 大野神社は高台で 石段を登る 今日の旅も 無事にと
見上げた額に 「井上圓了書」 招かれた? 導かれたのかな

最初の動画の時は じっとこちらを見詰め (たぶん キツネ) 二本目を
撮り始めたら 南を向き 長くふんわりした尾 軽快に 靡かせて(コドモノ
キツネ?) あれは きっと すんなりした大人 キツネつり 昔から お隣さま
大椚第一小学校跡  大人になった子供たちの声  木の 校舎

越沢稲荷は 第二小跡 車を停めて 登っていくと 小柄な男性 自転車の
場所を譲り 長く腕を下ろす大杉の写真 撮らせてくれる 「稲荷前」バス停で
お弁当? 水仙の道へ戻ろうとするとまた一人 異なるペダル 腿で引き揚げ
やってくる スカートの女の子のサイクリングには出会えない すり鉢状の
箱庭を外れると 急坂ばかり 仕方ない

気がつくと 児持杉の前にいる 友人も 伯母も連れてきた 壁?
建物ですか? 腰を伸ばしていた  萩日吉神社 いつも 平日に訪れる
萩ヶ丘小学校 鐘の音と 休み時間の声  林道わきの茶畑  大附では日枝神社
大きな切り株の洞 幻のケヤキを 見上げ  桃木八幡神社 草刈り作業の男性
私の参拝に 合わせて移動して  右奥の 大洗磯前神社へも

堂平天文台が 閉鎖していた日  カメラ&バイクの 老&壮年 
離れて 遠くを 眺めていた パラグライダー 橋倉城跡 高篠峠 刈場坂峠
飯盛峠 ふちかがり 尾根を越え 高山不動尊 大イチョウ 借宿神社
299 からも 帰れるの


「招かれて」©しっぽ

執筆者プロフィール

片岡直子(かたおか・なおこ)

1961年生まれ、入間市出身。東京都立大学卒業。英国系製薬会社勤務の後、埼玉県と山形県の中学校国語科教諭を経て詩人・エッセイストに。第46回H氏賞受賞。詩集に『晩熟(おくて)』『曖昧母音』(いずれも思潮社)、『産後思春期症候群』『なにしてても』(いずれも書肆山田)他、エッセイ集に『ことしのなつやすみ』(港の人)、『おひさまのかぞえかた』(書肆山田)。朗読CD『かんじゃうからね』。青森県~山口県で詩の出前授業。詩とエッセイの講座を20年、各紙誌書評を16年間担当。2018年にラジオ放送局「FM NACK5」開局30周年「埼玉あなたの“街”自慢コンテスト」の川柳の選考をして以来、県内市町村パンフレットを眺めるのが愉しくなり、ほぼ持っています。



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