あんずの花里物語

思わず微笑んでしまうリリカルな画風で大人気の蟹江杏の世界観を、作品とエッセイでお届けします。

蟹江杏アトリエ日記vol.15 夜の過ごし方

アート 蟹江杏

キャッツ
 

以前にもお話しましたが、
私は2拠点生活をしています。
寒い季節は東京の下町アトリエ事務所で仕事をして、
暖かくなる頃に長野県軽井沢の山奥のアトリエに拠点を移し、
11月初めまで、森の中で仕事をするのです。

都会と森では、全く生活スタイルが変わります。
まず東京では、スカイツリーを横目で見ながら
バスや電車に乗ってアトリエまで行きますが、軽井沢では
アトリエに寝泊まりしているので、
起きたら歯磨き前に森を背中に絵を描きます。

起床時間も就寝時間も違うし、
目に映る景色も、お出かけする場所も、
180度違うと言っても、過言ではありません。

どちらがどうかと言えば、一長一短。
絵描きの私にとってはそれぞれに別の刺激があり、
どこにいて、何を見て、どんな空気を吸うかが
私の創作活動においてとても大切なんだなあと、つくづく感じます。
作品は作家の内包世界だけでできているものではなく、
万物からその時にしか得られない影響や時間が詰め込まれているのですね。

けれど、2拠点生活で一つだけ変わらない事があります。
それは、仕事の後の「晩酌」です。
外が晴れていようが雨だろうが、夕方、決まった時間になると、
今日は何をツマミに何の酒を飲もうかと、頭に浮かび、
そこに至るまでの行程を考えはじめます。

朝の時点では「昨晩飲み過ぎちゃったし、
美容と健康の為に今日はお酒控えようかしら・・・」と思っていたはずなのに、
この時間になると「晩酌」という2文字が頭に浮かぶのですから、
恐ろしいですね。

都会にいる時は、仕事が終わったらあのバスに乗って、
今日はあの飲み屋であのツマミでやろう。
いや、まてよ。
その時間ならスーパーのタイムサービスで
何か良いものが30パー引きになっているやもしれぬ。
などと思いを巡らせる。

森にいる時は、朝の散歩でタラの芽と山ウドが
確かあそこら辺にあったなあ。
ここで作業を切り上げて、山菜採りに行って天ぷらにするか・・・
いや、まてよ。
町まで降りてスーパーのタイムサービスで
何か良いものが30パー引きになっているやもしれぬ。
と思いを巡らせる。

こうして両者を並べてみると
スーパーマーケットのタイムサービスが共通である事がわかります。
つまり、ツマミ確保のためにはどちらの生活においても
タイムサービスは大切なイベントであるわけです。

これで、スーパーの方を選んじゃったら、
都会でも森でも変わらないじゃないか、
と思われるかもしれませんが、
とんでもない、これ!
2拠点生活の醍醐味。

スーパーマーケット通の皆さまには釈迦に説法でしょうが、
トカイナカのスーパー(軽井沢でも地元の人用スーパー)と
トカイのスーパー(東京北千住あたり)のお惣菜コーナーは
取り揃えが違うのでございます。

お惣菜コーナー担当者様は地域密着で土地柄に合わせて
あの手この手で地元住民の胃袋を考えてメニューを考案してくれていますから、
毎度その場所ならではの逸品に出会うことができるので、
私たちは目を光らせて隈なくチェックする必要があります。

例えば、お魚は、日本海の魚の取り扱いが多いか、
関東近海や太平洋の魚が多いかだけで、
お刺身や煮付け一つとってもそれぞれメニューが異なります。
お肉は、ジビエがあるかないかなどで楽しみ方が違いますから、
トカイでも、トカイナカでも、酒売り場とお惣菜コーナーのパトロールは
健やかな晩酌時間を迎えるためには怠ってはなりません。

さて、数あるお惣菜の中から、
野菜中心の副菜2品とメインとなるタンパク質豊富系1品で成り立つ
「今宵の晩酌先鋭チーム」を作るにあたり、
私は、何を欲しているのか自分自身と本気で向き合い、
時にはチャレンジ精神も忘れずにチーム構成をします。
こうして選ばれた先鋭メンバーを携えて晩酌にいざ臨むわけです。

ガサツでめんどくさがり屋の私ですが、
お惣菜は気に入ったお皿に
持てるセンスを全て出し切り美しく丁寧に盛り付けます。
どんな安価な出来合いのお惣菜でも、
パックのまま割り箸で食べるなんてとんでもありません!
酒器もその都度、合わせて選びたい派です。
ちょっと贅沢だと思っても、
作家さんが作った手作りのモノや骨董などを買い集めて使っています。

だって、180円のポテトサラダも90円の搾菜も、素敵なお皿に盛り付けるだけで、
高級居酒屋に行った気分になれるとしたら、むしろお得だなぁと思ってしまいます。

このおひたしは、憧れの作家M先生のお皿で。
唐揚げは、友人作家のT子の器で。
お酒は、後輩作家のK君の磁器。
こうした具合です。

この一手間は都会であろうと森の中であろうと、
毎日の私の晩酌をあたかも特別な時間にしてくれます。
30パー引きで買ったお惣菜達も、杏さんに選ばれて本当に良かったと、
さぞかし喜んでいることでしょう。

食卓の上に整然と並べられた戦利品の数々をゆっくり眺めてから、
今宵の晩酌タイムがはじまります。
聞こえてくる音は、都会と森では当然違いますが、
車のクラクションや喧騒も、
木々のざわめきもどちらもいい感じで、
結果、どっちもお酒が進むわけです。

これ、幸せ〜。
で、飲み過ぎちゃうんだよな〜。

朝になり、昨晩はちょっと飲み過ぎたなと反省して、今日は休肝日にしよう、
と心に決めても、夕刻のあの時間帯になると、
毎回同じことを思ってしまう状況も、この話もスパイラル。
魅惑の日本語、
その名も「晩酌」。

今年も、森のアトリエの季節が近づいてきました。
東京の行きつけの飲み屋にもスーパーマーケットにもしばし別れを告げます。

さあ、採れたての春の山菜でお料理するのも、タイムサービスのお惣菜も楽しみだなぁ。

皆さんの「晩酌」はどんなかしら。
きっとそれぞれの場所でそれぞれの楽しみ方をなさっていることでしょう。
いつか覗いてみたいものですね。

キャッツ

タイトル:「キャッツ」
サイズ:140×110mm
シート価格(税込): 16,500円
額装価格(税込): 23,000円

※別途、送料がかかります。
販売数量: 10枚限定
お届けの目安:約3カ月

蟹江杏コレクション

執筆者プロフィール

蟹江 杏(かにえ・あんず)

画家。東京生まれ、埼玉県飯能市の「自由の森学園」を卒業。「NPO法人3.11こども文庫」理事長。ロンドンにて版画を学ぶ。美術館や全国の有名百貨店など、国内外で多数の展覧会を開催。新宿区・練馬区・日野市をはじめ各地の都市型アートイベントにおいて、こどもアートプログラムのプロデュースを手掛ける。東日本大震災以降は、「NPO法人3.11こども文庫」理事長として、被災地の子ども達に絵本や画材を届けたり、福島県相馬市に絵本専門の文庫「にじ文庫」を設立するなどの活動を行う。また、2020年から「SDGs JAPAN」と連携し、アートやアーティストがどのようにSDGsに貢献できるかを、様々な分野のアーティストとともに模索、牽引していく。

https://www.atelieranz.jp

蟹江 杏

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