あんずの花里物語

思わず微笑んでしまうリリカルな画風で大人気の蟹江杏の世界観を、作品とエッセイでお届けします。

蟹江杏アトリエ日記vol.21 公園ドラマ

アート 蟹江杏

スパイダー

私は一人っ子で甘やかされて育ったせいか、
根拠のない自信と万能感に満ち溢れ、
プライドが高い赤ん坊でした。

3歳をすぎると、自分と他の子ども達とは、何かが違うとおもいはじめ、
公園では、私に近づいてくる同世代の子ども達には、牽制の意を込めて、
最大限背筋を伸ばし、つま先立ちをしながら
「ワタクシ、かにえあんちゅというの。あなたのおなまえは?」と
私と遊びたいのなら先に名乗れや!
と言わんばかりに自ら声をかけました。

声をかけられた子どもは皆、「????あんた誰??」という反応でしたが、
空気を読めない私は、「まずはこれでマウントが取れたな、へへへ」と思っていました。

それでいて、リーダーシップを取れる性格なわけもなく、
みんなの中で一緒に遊ぶのも苦手で、
せっかく挨拶を交わして知り合いになっても、
結局、独り砂場で、角の取れたガラスを探したり、
ダンゴムシやアリンコと戯れる毎日でした。

近所の「みどり公園」と呼ばれる小さな市立の公園までは、自宅から徒歩3分。
よく母と手を繋いで遊びに行きました。
私の母は、当時インディアンのような髪型をしていて、インディアンのような顔をして、
エキゾチックな模様の服を着ている大柄な女性でした。
常に長く伸ばした爪を黒や青色に塗って、
突き指で湾曲した小指を立てて歩いていました。

幼稚園での初めての保護者会では浮きまくる存在で
その容姿から日本語が通じないと思われていたらしく、
海外帰りのママさんに英語で話しかけられるほどだったそうです。

ですから、近所の小さな公園なんて
彼女には全く似合わない場所でした。
公園デビューの日は覚えていないけれど、
きっと母も私も緊張して憂鬱になりながらも、
みどり公園に一歩足を踏み入れたに違いありません。

けれどその様子とは裏腹に、
母はとてもお話好きでアネゴ肌。
常識人であり、困った人がいれば助けずにはいられない、どんな人でも受け入れる性格。
ですから、そう時間もかからずにママ友もできて
彼女の周りにはいつも沢山の女性たちがおしゃべりしに来るようになりました。
遅い出産だったので、周りのママさん達より年上だったこともあり、
悩み事の相談など受けていたようでした。

娘の私は・・・といえば、そんな母のママ友の子ども達が気を遣ってくれるおかげで、
なんとなく、子ども集団の中にいるようにはなりましたが、内心、しっくりこないし・・・。
みんなで遊ぶ鬼ごっこも、かくれんぼも好きではなかったです。

私には、石探しやダンゴムシと遊ぶ以上に
公園でどうしてもやってみたいことがありました。
それは、絶対秘密のやばいヤツ。
母と一緒だと、怒られるに決まっているので、
ある日、父と2人でみどり公園に出かけたときに決行しました。

ここからは読者のみなさんに、
引かれること覚悟でお教えしましょう。

私が子どもの頃公園でやってみた結果、
楽しかった遊びベスト1。

「すべり台をすべり降りながら、同時にオシッコをする」という、
前代未聞の許されざる遊びです。

さんざん、石集めや、虫遊びに集中した後、
膀胱がぱんぱんになるまで、トイレには行かず、
すべり台の上からすべりながら、オシッコする快感がお分かりでしょうか。

私は夜泣きもお漏らしもほとんどしない赤ん坊だったと両親から聞いています。
だからでしょうかね・・・
白昼堂々しかもすべり台の高い位置から一回やってみたかったんですかね?
天下を取る気分だったんでしょうかね?

オシッコしながらケラケラ笑って、
すべり台の上からすべり降りてくる幼い娘を、
「あっ」と短い悲鳴をあげて、キャッチし、
顔面蒼白になりながら抱きかかえ、
周囲に誰もいないことを確認し、
父は、一目散に家に向かって走りました。

無事帰宅した父。
言わなきゃいいのに、母にわざわざこの衝撃事件の一部始終を報告すると、
母は私の身体を拭き、着替えさせながら、
想像通りインディアン酋長のように厳しい顔付きで、父に問いました。

「すべり台、拭いてきたんでしょうね!?」

その後、父がみどり公園に雑巾を持って行ったか、
行かなかったかは記憶にございません。

こうして、「公園で人生で一度やってみたかった遊び」が実現できて、私なりに納得できた事で
二度とこのような遊びをすることもありませんでしたし、
したい、と思う事もなくなりました。

あの頃も今も、公園には、どんな家族にも
ちょっとしたドラマがあります。

最近になって改めて訪れてみたら、
あの思い出のすべり台はなくなっていました。
みどり公園のまんなかに立って
こんなに狭くて小さな場所だったかなあ、と思いました。

父がすでにいない我が家に帰ると、
インディアンではなく魔女になった白髪の母が独り、
曲がった小指を立てて電子タバコを吸っていたので
タバコの害について私がしっかり説教したのでした。

スパイダー

タイトル:「スパイダー」
サイズ:140×110mm
シート価格(税込):18,700円
額装価格(税込):25,000円

※別途、送料がかかります。
販売数量:5枚限定
お届けの目安:約3カ月

蟹江杏コレクション

執筆者プロフィール

蟹江 杏(かにえ・あんず)

画家。東京生まれ、埼玉県飯能市の「自由の森学園」を卒業。「NPO法人3.11こども文庫」理事長。ロンドンにて版画を学ぶ。美術館や全国の有名百貨店など、国内外で多数の展覧会を開催。新宿区・練馬区・日野市をはじめ各地の都市型アートイベントにおいて、こどもアートプログラムのプロデュースを手掛ける。東日本大震災以降は、「NPO法人3.11こども文庫」理事長として、被災地の子ども達に絵本や画材を届けたり、福島県相馬市に絵本専門の文庫「にじ文庫」を設立するなどの活動を行う。また、2020年から「SDGs JAPAN」と連携し、アートやアーティストがどのようにSDGsに貢献できるかを、様々な分野のアーティストとともに模索、牽引していく。

https://www.atelieranz.jp

蟹江 杏

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