蟹江杏アトリエ日記vol.8 部活動のススメ

アート 蟹江杏

あんずの花里物語

思わず微笑んでしまうリリカルな画風で大人気の蟹江杏の世界観を、作品とエッセイでお届けします。

「鳥を呼ぶ森」
 

私は集団行動が苦手です。
人は個々の時は狂っていないのに
集団という塊として見ると狂っていると感じることがあります。

けれど、私は、一人一人と向き合って話をするより、
多人数に向けて一方的にお喋りする方が
気が楽という大きな矛盾を抱えているため、
結果あらゆる場面に馴染めず、
特に子どもの時は薄暗い人生でした。

思春期を過ぎて恋愛しても、
それは人間同士が向き合う究極のコミュニケーションが必要なので、
そんな私の性格では、
うまく行くはずもなく、今に至るわけです。
結果、一人でいるのが一番気楽で、
それが功を奏して画家になったのかもしれません。

母にこの話をすると、
「あんたよく言うよ、散々友達と大はしゃぎして、
学校では要領よく優等生やってたくせに」と返されますが、
とにかく自分としては、幼稚園、小学校、中学校での生活は苦痛だったので、
すっかり学校嫌いでした。

幼稚園の時から、毎朝、熱が出たらどんなに良いだろうと、
とにかく休む理由ばかり考えて生きていました。
せっかく登園しても、
廊下に仰向けになり身体をピンと伸ばして泣き叫んで、
家に帰らせろ、今すぐママに電話して迎えに来させろ、
とよく訴えたものです。

小学生になると、体温計の先を擦ったり、こたつに入れて温度を上げる技で、
学校をサボることに成功したことも何度かありました。
公園で遊んでも、鬼ごっこやかくれんぼの途中でみんなにバレないように、
さりげなく姿を消して家に戻りました。
家で好きなだけ寝て、本を読んだりお絵描きしたり、
犬や虫と遊ぶほうが好きでした。

中学に上がると、表向き優等生の立場を確保していた私にとって、
なかなか学校を休むことが難しくなり、
気が休まる時間が少なくなってきました。

特に放課後も女子のグループで行われている
謎の座談会への出席が苦痛でしたが、
参加しないと話についていけなくなったり、
悪口を言われる対象になる危険性を察知していたので、
塩梅をみて出席するようにしていました。

部活動なんてもってのほか。
時間を制限されるうえに、人間関係の渦に巻き込まれそうな所に
自分から入るなんて考えるだけでゾッとしました。
私が通う中学校では全ての生徒が部活動に参加するのがルールだったので
仕方なく、なるべく帰宅部に近い形で活動できる部活を選んで入部することにしました。

美術部だったのでは? という質問が皆さんから聞こえてきそうですが、
美術部は学校滞在時間が長くなりそうなのと、
担当教員との相性を鑑みて、あえて避け、
絵は家で描くようにしていました。

そこで、以下の条件を兼ね備えた部活を探しました。

①先輩の人数が少なく部員もほとんどいない事 → 上下関係に悩まされない
②顧問が部活動に熱心でない事 → うるさく管理されたり、熱い励ましや指導などがない
③歴史や受賞歴が無い事 → 学校全体からの期待や規制もないので自由度が高い
④大会など外部の学校との交流がない事 → 他学校のどの男子がカッコいいなどの面倒な噂話に巻き込まれないで済む
⑤評価基準がない事 → 上を目指しようがなく、地道な練習がない
⑥野外での活動が多い事 → そのままバックレて家に帰れるかもしれない

これらを基準にして調査してみると、
どうやら、自然観察部には、部員が一人もいないことが判明。
すぐに、ここに決めました。
さらに顧問も理科のH先生という見るからに大人しくてやる気のなさげな教員、
しかも、多摩川に野鳥観察に行くのが主な活動だというのです。
我が家は多摩川沿い。
そのまま帰宅するにはもってこいではありませんか。

この自然観察部を帰宅部化する計画を仲良しのRちゃんに話すと、
Rちゃんも私と同じ考えらしく、一緒に自然観察部に入りたいと言うので、
では、そうしよう、となりました。

部活動の初日、二人きりの部員かと思いきや、
同じ学年であだ名がジュゴンという男子も入部したことを知りました。
ジュゴンは学校外ではスカートをはいて歩いていると噂がある子でした。
丸顔のいがぐり坊主、明るい性格で
オネエ言葉でまくし立てて喋るので皆から面白がられていましたが、
ジュゴンもどこの仲良しグループにも属してないようで、
教室で一人でいることが多い子だったので、
自然観察部にはきっと私と同じ目的で入部してきたに違いないと確信しました。

活動内容は三人で図鑑を片手に双眼鏡を首から下げて河原に行き、
あとは鳥を見つけて、メモするだけとのこと。
地味な青春です。

初日とはいえ、もちろん私は、虎視眈々とそのまま家へ帰る機会を狙っていました。
ゴールデンメンバーが揃っているので、
誰に遠慮する必要もなく、目的はいとも簡単に実行できました。

河原の土手を歩いて、自分の家が見えてくると、
「私、家、近いから帰るわ」
と、そのまま土手を走って降りて一直線に家に向かいました。
後ろを振り返ると、Rちゃんが手を振っていて、
ジュゴンは私を指差してお腹を抱えて大爆笑していました。

次の日の放課後、私が少し遅れて部室に行くと、
RちゃんとジュゴンとH先生がいて、気まずい雰囲気が漂っていました。
「昨日、残念な事がありました。
先生は君たちの観察の結果を楽しみにここで待っていたのに、
誰も学校に戻らず、何か事故かと思い心配して、親御さんに確認すると、
すでに皆さんそれぞれ帰宅済みでした。
部活動はあくまで学校内の活動ですから、途中で家に帰るのは校則違反です。
他の先生とも話し合ってこれからは私が毎回河原について行くことになりました」
とH先生が弱々しく言いました。

えー、あの後、二人ともそのまま帰ったのか!
Hがついてくるのかよ・・・こりゃ帰宅部化は無理じゃん。
と内心絶望しましたが、
二人が黙って下を向いたきりなので、
「先生、すみませんでした。学校に戻るより河原からは家が近いので、
校則違反とは知らずに帰宅してしまいました。これからはいたしません」
と丁寧に頭を下げました。

その日からH先生は河原に同行する様になり、私たちはしっかり野鳥を観察し、
せっせとノートに記録しました。

それまで帰宅部化の実現ばかりに気を取られていましたが、
不思議なもので、
H先生の解説付きで野鳥を観察していると、
小鳥が可愛く見えてきて、
名前を覚えたりできることに喜びを感じるようになりました。

だからといって、ものすごく部活動が楽しいわけでもなく、
早く家に帰りたいのは山々でしたし、
その後3年間後輩が一人も入ってこない地味な部活でしたから、
学園ドラマの様に何か三人で成し遂げることも一切ありませんでした。
まあ、現実なんてそんな感じです。

それでも、私が当初思い描いていた帰宅部化には失敗した代わりに
双眼鏡の正しい使い方を習得し、小鳥が好きになりました。

あの時、ゲリラ帰宅しなければ、
やる気のないH先生はきっと河原に同行するきっかけがなかっただろうから、
部員三人だけでダラダラと何してたのかしら?
と思うと、多少無理やりでも学校の部活にきちんと参加するって
それなりに良いことだなって、大人になってみて思います。

今でも森のアトリエの窓に小鳥が来ると、自然観察部OGとしては、
思わず、「この声はシジュウカラだ」、
「オオルリが見れるなんて今日はついてるなあ」なんて、
一人で野鳥ミニ知識を声に出して言ってる自分は、
もしかしたら、帰宅部じゃなくてよかったのかなと思います。

「鳥を呼ぶ森」

タイトル:「鳥を呼ぶ森」
サイズ:235×170mm
シート価格(税込):33,000円
額装価格(税込):39,000円

※別途、送料がかかります。
販売数量: 5枚限定
お届けの目安:約3カ月



蟹江杏コレクション

執筆者プロフィール

蟹江 杏(かにえ・あんず)

画家。東京生まれ、埼玉県飯能市の「自由の森学園」を卒業。「NPO法人3.11こども文庫」理事長。ロンドンにて版画を学ぶ。美術館や全国の有名百貨店など、国内外で多数の展覧会を開催。新宿区・練馬区・日野市をはじめ各地の都市型アートイベントにおいて、こどもアートプログラムのプロデュースを手掛ける。東日本大震災以降は、「NPO法人3.11こども文庫」理事長として、被災地の子ども達に絵本や画材を届けたり、福島県相馬市に絵本専門の文庫「にじ文庫」を設立するなどの活動を行う。また、2020年から「SDGs JAPAN」と連携し、アートやアーティストがどのようにSDGsに貢献できるかを、様々な分野のアーティストとともに模索、牽引していく。

https://www.atelieranz.jp

蟹江 杏


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