移住の真相!〜なかなか表には出ないけど

全国でトカイナカムーヴメントが起きている。
移住マッチングサイトSMOUTでも上位に食い込む人気自治体岡山県真庭市。その面積が東京23区に匹敵する街に移住した若者の移住実感は──?

第5回 どうしても「葬儀」が身近な、田舎のリアル

甲田智之

家のなかで淡々と流れる「お悔み放送」

家の居間でくつろいでいると、突然「声」が聞こえてきます。

「真庭市役所から、亡くなられた方をお知らせします」

そして、室内に設置している、真庭市全世帯の約97%が加入している「告知端末機」から、女性の声で亡くなられた方の名前と通夜の場所、日時が告げられていきます。標準語でも、方言でもない。やや変わった言いまわしで亡くなられた方の名前を淡々と読み上げていくのです。

その声が、家のなかで鳴り響きます。しかも、その「お悔み放送」は1時間ごと。1時間経ったら、また女性の声で亡くなられた方の名前が読まれていきます。

移住したての頃は、毎日流れてくる「亡くなられた方の名前」にどう気持ちをおさめたらいいのかわかりませんでしたが、いまではすっかり慣れました。岡山県真庭市の日常です。

ちなみに、その「告知端末機」とは、辞書ぐらいの箱です。そこから「クマが目撃されました」や「山林火災が発生しました」など、防災に関する情報やイベント情報が流れます。ときどき火災訓練のサイレンが鳴り響いて、ビックリします。

また、地元のケーブルテレビ「真庭いきいきテレビ」やネット回線を引くために必要な、真庭市民の必須アイテムです。有料ですが、約97%の加入率です。

一家に一台、真庭市の告知端末機。ラジオも聴けます

 正午と夕方17時には、時間を告げるメロディも流れます。そのメロディを聞いて、「あ、もうお昼か」と思ったり、「そろそろ帰ろうかな」と思ったり。僕たちの生活リズムを刻んでくれています。

 そんな告知端末機から流れる「お悔み放送」と前後して、地域のなかで「あそこの××さんが亡くなったらしい」という話が駆けまわります。どなたかが亡くなった、という情報は地域ではとても大切で、ご年配の方の多くは熱心に「お悔み放送」に耳を傾けています。

 なぜなら、それは「自分が参列する可能性があるから」です。僕もどなたかが亡くなったという話にはとても敏感になっています。

 

地元ケーブルテレビでも常時「お悔み」を見ることができます

 そしてもし自分と関係する方だったとしたら……。前回のコラムでお伝えした「礼服」着用のときとなります。

葬儀が多いことで起こることとは

移住して驚いたことのひとつに、参列する葬儀の多さがあります。

大阪に住んでいたときは1年に1回あるかないか。親族か、友だち、会社の方ぐらいでした。しかし真庭市に移住してからは、それに加えて同じ地域の方、友だちや知り合いの親族、地域の行事で関わっている方など、対象が格段に広がりました。

その結果、参列する葬儀が圧倒的に増えました。

なかでも、同じ自治会で亡くなられた場合は、「役(やく)」がまわってきます。役とは、お通夜と告別式における自分の役割です。たとえば、これまで「受付」をさせていただきました。

大阪にいたときには、「同じ町内だから」という理由で、お通夜や告別式の受付をすることになるなんて想像もできませんでした。葬祭ホールの控え室に通され、事前の打ち合わせを簡単におこないます。そして時間が来れば、受付に立つのです。

参列者から香典を預かって、後ろの会計係にまわし、芳名帳に名前を書いていただいて、香典返しを渡します。それが受付の役割です。

ちなみに、お通夜や告別式の座席も「自治会の方」ということで前のほうに通されます。

また、あるとき。たまたま受付の「役」がなく、普通に参列していました。住職のお経を聞きながらうつむいていると、ふいに自治会長さんに肩を叩かれました。なにやら焦っている様子です。

「ちょっと、こうだくん」
「はい?」
告別式の最中なので、大きな声は出せません。
「悪いんじゃけど、これから焼き場に(車で)走ってもらえんじゃろか?」
「焼き場ですか? いいですけど、どうして?」
まだ、告別式の最中です。
「これを持って。さきに焼き場の人に渡してほしいんじゃ」
「え、これは?」
小さな箱です。
「わからん。わしも六地蔵とだけ聞いて渡されたから」
「六地蔵?」
「わしもわからん。とにかくこの六地蔵を持って、焼き場に走ってほしいんじゃ」
「は、はい」

なんのことだかさっぱりわかりません。当時の自治会長さんもよくわかっていない様子でした。とにかく、僕にできることは六地蔵を持って、急いで焼き場に向かうことです。

告別式を抜け出して、僕は自家用車で焼き場へ向かいました。

無事に、六地蔵が入っている(らしい)小さな箱を焼き場の方にお渡しして、待つこと1時間弱、告別式に出られた方々と合流することができました。ただ、それが何で、何のためだったのか、いまでもよくわかっていません。

葬儀が多いことで起こることは、ほかにもあります。田舎暮らしのほんとのところをお伝えするコラムですので、やや不謹慎ながらあえてお伝えすると、「お金」のことがあります。

田舎暮らしでは、よく「見えない出費」があると言います。自治会費や神社費、僕の住んでいるところでは、家の裏に流れている「用水」を管理している委員会さんにお支払いするお金もあります。

そして、意外とこの葬儀の「香典」の多さも、「見えないお金」のひとつなんじゃないかなと思います。ちなみに、5,000円ぐらいが相場と聞いています。

執筆者プロフィール

甲田智之(こうだ・ともゆき)

1984年生まれ。大阪府出身。京都精華大学卒業。一般企業の営業職を経て、ライター・編集者として独立。2016年に岡山県真庭市へ移住。元真庭市地域おこし協力隊。現在、広告代理店の株式会社はこらぼ取締役、地域づくりの一般社団法人コミュニティデザイン理事として、ローカルメディアや高校教育、コミュニティ創出に携わっている。また作家として小説の執筆、一般書籍や雑誌の編集、自分史の代筆などもしている。著書に『中村文昭という生き方 出会いを通して自分に出会う!!』(ごま書房新社)、原作付きノベライズ『レイワ怪談』シリーズ(学研プラス)などがある。

甲田智之

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