蟹江杏アトリエ日記vol.17 東京下町接骨院

やさしいライオン
 

絵を描くことは、
体育みたいだなと思っています。
大きな作品、とくに壁画の仕事なんて
全身運動です。
かなりの体力をつかうし、さらに数時間も高所作業を強いられることも多く、
強い体幹も必要です。
足腰、腕肩、ギシギシ音がきこえます。

何歳までこのサイズの作品が描けるのだろうか、と常に不安にかられています。
きっとどんな作家でも、
このくらいの年頃になると、
末永く描くために身体のメンテナンスが
とても重要に感じるはずです。

幸運なことに私の東京下町アトリエのお向かいさんは接骨院です。
ちなみに、斜め向かいは赤提灯居酒屋(今回の話題にカンケーないか)。
アトリエの玄関を出て徒歩5秒。
私は、この接骨院にだいぶお世話になっています。
ちょっと、描きすぎて腕痛いなと思ったその瞬間、接骨院にいきます。
私は常連患者にちがいありません。

担当のO先生は、休み時間にお弁当を買いに行く姿をお見かけしますが、
自転車の乗り方が昭和ヤンキー的で、
坊主で怖そ、なんだけれど、腕もよい優しい先生です。

接骨院はとても流行っていて、あちらこちらで先生方の元気なやりとりが飛び交います。
「〇〇さん、乗り物にのりますか?」
遊園地のパンダの乗り物じゃなく、ウォーターマッサージベッドなどのことです。
「〇〇さん、ダブルでーす!!」
これは、ウイスキーダブルロックではなく、
マッサージの延長時間がダブルという意味です。
「〇〇さん、ハイボルト!」
これはハイボールではなく、高電圧の刺激を患部の深部に浸透させる器具です。

さて、接骨院ではたいていうつ伏せで施術をうけます。
とくに小円筋に電気かけてる時の10分間は、辺りの様子は見えませんが、
他の患者さんの話がよく聞こえます。
下町のお婆ちゃんお爺ちゃんや、近くのスナックのママ、部活で怪我した中学生。
なぜか意味なく遊びにきてる小学生。
声だけしか存じ上げませんが、
皆さま、お馴染みの方々。

私はうつ伏せ状態の中、ご近所情報をすべて接骨院にて仕入れています。
近くのスーパーが閉店するだとか、
駅近くに中国の方がエステオープンしたとか。
Mさんちの息子が大学合格したとか。
Bさんが最近、ほっともっとの肉野菜炒めをうどんにのせて食べるのが好きだとか。

ただし声だけだから、お姿は勝手に想像させていただいております。
盗み聞きじゃん、それ!
って思う方もいるかもしれませんが、
この接骨院では、土地柄なのか、みんな大きな声で楽しくおしゃべりしているんです。

私はこの下町時間が意外と好きで、
作品制作に行き詰まった時など、
身体をメンテナンスしてもらうのはもちろんですが、
この会話を聞いているだけで、癒されるというか、良い意味で現実に戻れるというか・・・。
要は頭のキリカエにもなっているのです。

作家業は浮世離れしがちな職業です。
こうした日常のさりげない会話を聞くことが、私もこの社会の一員であり、
そうありたいな、
そのためにも、また
アトリエに戻って絵を描こうと、
あらためて仕事に集中しなおせるきっかけとなるのです。

こうして通っているうちに、
接骨院のある患者さんが私の展覧会にいらしてくださったと、
でも会場の入り口まできて中に入らず帰ってしまったと、O先生が教えてくれました。
アートギャラリー独特の雰囲気に気後れして絵を見ることができず
帰ってしまったというのです。
初の接骨院友達ができるかもだったのに残念〜。
まあ、アートギャラリーや画廊って、
たしかに入りにくいんだよなぁ・・・。

でも、この場を借りて断言します。
大丈夫です。
私の展覧会はジャージでいらしても大歓迎です。
なんなら、
下町接骨院の診察券を首から下げてご入場ください。
わたくし、丁寧に会場をご案内いたします。

さて、今年の新作展も迫ってまいりました。
読者の皆さま、
是非一度、蟹江杏の生原画を会場に直接見にいらしてくださいませ〜。
6月2日からギンザ シックス5階のアールグロリューです。
(ちゃっかり、新作展の宣伝させていただき恐縮ですっ!)

接骨院でしっかりメンテナンスして、作品制作にますます精進いたします。
皆さまのお越しを会場でお待ちしております。

蟹江杏 新作展 Ginza Six

蟹江杏 新作展 GINZA SIX
2022年6月2日(木)~8日(水)
Artglorieux
〒104-0061 東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 5F


やさしいライオン

タイトル:「やさしいライオン」
サイズ:390×460mm
シート価格(税込):121,000円
額装価格(税込):145,000円

※別途、送料がかかります。
販売数量: 2枚限定
お届けの目安:約3カ月

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