いないようでいてくれる

人類が言葉を持つ以前の状態を「ピュシス」と呼ぶらしい。言葉を持った人類は何が変わったのか? 言葉は人生の感情を全て言い表せるのか? はたまた仮そめの記号なのか?
「H氏賞」受賞詩人が紡ぐ言葉世界を、トカイナカの風に吹かれながら……。

最終回 いつからそんなに 空を 見上げて

片岡直子 詩・ポエトリー

 

空がこんなに広いと  凧も 揚げたくなるのだろう  東の端
カスリーン台風の後 江戸川の拡幅により 集団移転をしたという 西宝珠花の街
明るく佇み 神社の横から河川敷 大凧祭り 上若組足場の辺り 今は 私と
土手のランナーが 一人 「サツマイモ」or「自動車」= 県のかたち
南北の倍  東西は 経度にして1度12分ほど

先月は お犬様の三峯神社  三十五年振りくらい  思うより早い紅葉
二年近く前 「三峯神社でワーケーション」という記事に 「?」と思っていた
境内の空気 私の頬に? 翌日まで香り 案外いけるのかも  遥々の土地 御仮屋の
遠宮へ  大型の鳥の影 道を渡る  帰りにはまた 贄川宿を通り 吉田町 二つ目の
椋神社 龍勢祭りの櫓 境内には お犬様 スミソニアンの人も驚いた 飛ばす技術
庄和の凧揚げも 同じ頃 始まって  土と川に生きていると思っていた人々
どのようにして 空を 見つけたの?

祖父の日記 「ツェ号」というのは ツェッペリン伯号
飛行ルートが描かれている 霞ヶ浦へ降り立った 踊る ペン先
川島町のホンダエアポート ツェッペリンNT2番船 日本飛行船 解体も
毛呂山町のスカイパーク 遊水地には気球 熊谷にグライダー 入間川の花火大会
鯉のぼりを作る加須 揚げない神川町と  一度も行かない 基地の航空ショー
昔の三峯には架空索道 アドバルーン 航空発祥の地 第3の 空港も?

そう言えばこの旅も 巨樹を見上げるところから  根を張る足元  垂直の
幹の太さと 枝の別れ  何よりその高さ  上谷の大クスを 載せていない本
西平の大カヤ 収められていて 足腰の心配な人と 訪ね この住所も熊は出ている
いつもの鈴  一人ずつ 丁寧に 鳴らし  天文台へも  空は広いほど
嬉しくて  でも 山に  ほっこり  包まれてもいたい

庄和町を南下 松伏町や吉川市  松伏は いきなり魚沼で お米の広々
文武芸能の人も生まれ 凛として独り立ち 丘公園では草刈りの 南の公園では
風車に上って 大落古利根川に沿い 下っていく  偶然見つけた 「川野T字路」
吉川と野田を結ぶ道? 集落には川野路の歌碑 川野橋  旧姓の郷へ
辿り着くとは  自転車と電話ボックス  今では父母も
空への 契機


「最後の願い事」©しっぽ

執筆者プロフィール

片岡直子(かたおか・なおこ)

1961年生まれ、入間市出身。東京都立大学卒業。英国系製薬会社勤務の後、埼玉県と山形県の中学校国語科教諭を経て詩人・エッセイストに。第46回H氏賞受賞。詩集に『晩熟(おくて)』『曖昧母音』(いずれも思潮社)、『産後思春期症候群』『なにしてても』(いずれも書肆山田)他、エッセイ集に『ことしのなつやすみ』(港の人)、『おひさまのかぞえかた』(書肆山田)。朗読CD『かんじゃうからね』。青森県~山口県で詩の出前授業。詩とエッセイの講座を20年、各紙誌書評を16年間担当。2018年にラジオ放送局「FM NACK5」開局30周年「埼玉あなたの“街”自慢コンテスト」の川柳の選考をして以来、県内市町村パンフレットを眺めるのが愉しくなり、ほぼ持っています。


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