人類が言葉を持つ以前の状態を「ピュシス」と呼ぶらしい。言葉を持った人類は何が変わったのか? 言葉は人生の感情を全て言い表せるのか? はたまた仮そめの記号なのか?
「H氏賞」受賞詩人が紡ぐ言葉世界を、トカイナカの風に吹かれながら……。
いだかれる ~ 古くて広くて大きいもの ~
例えばひと日 過ごすなら 高窓の里 秋平地区
祖父の造った機織り機 静けさと 詩を紡ぐ 北上して
保木野の辺り 龍清寺 飛龍のカヤ 耳を 澄ませていると
我に返る ことがある 長沖の飯玉神社 コンパクトな家々
憧れる 小さな家のなか ひっそり 暮らしてみたい
小山川 桜並木 広々した骨波田の 藤の棚 墓地が無料
サーキット場の蜂の音 日本神社も日本晴れ 間瀬湖へ登る途中
管理橋 小ささと苔の緑に 吸い込まれ ぽってりとした湖面 桟橋
連なるボート 釣りの人々 堰堤脇には へら鮒供養塔 見上げてなんだか
可笑しく このまま走ると 長瀞町へ 三十三霊場も 猫が占め
二階建て三層の さざえ堂 浅間山は 案外 近い
歌番組 はにぽんが踊っていたので ミュージアムへ行かないとかな
産泰神社へお詣りをして お花へ水やり 四方田団地のご婦人と 話をした
明治初期の本庄遷都論 根性ではなく 温情のアクセント 紹介動画 街自慢
寺坂橋 郵便局 レンガ倉庫の「さてら糸」 若者が一人 英語の発音
歯医者さん裏 二本に見える 仲町愛宕神社の ご神木
城山稲荷神社 縦半分に焼け 姿の美しいケヤキと藪椿 本庄まつりの
金鑚神社 クスノキは 見上げたら 後ろへ倒れそう
帰りたくないと想ったのは 北辺の街だから?
ミュージアムを訪れると 笑う埴輪 & 学芸員の方々
「アクセントはアイデンティティー」の街 すでに二冊の『本庄市の地名』
バンネンジ ヌマンダ 五十子陣 深入りし過ぎないよう眺めていると 帰り路
美里町 猪俣の百八燈塚を勧められ 町を見下ろす堂前山 草原と
土を積み上げた 灯かりの塚の列 子供たちの 今と過去
待っていたのか 話しかけてくる 寺戸の樫
十二天社は 急坂で
「いつまでも」©しっぽ
片岡直子(かたおか・なおこ)
1961年生まれ、入間市出身。東京都立大学卒業。英国系製薬会社勤務の後、埼玉県と山形県の中学校国語科教諭を経て詩人・エッセイストに。第46回H氏賞受賞。詩集に『晩熟(おくて)』『曖昧母音』(いずれも思潮社)、『産後思春期症候群』『なにしてても』(いずれも書肆山田)他、エッセイ集に『ことしのなつやすみ』(港の人)、『おひさまのかぞえかた』(書肆山田)。朗読CD『かんじゃうからね』。青森県~山口県で詩の出前授業。詩とエッセイの講座を20年、各紙誌書評を16年間担当。2018年にラジオ放送局「FM NACK5」開局30周年「埼玉あなたの“街”自慢コンテスト」の川柳の選考をして以来、県内市町村パンフレットを眺めるのが愉しくなり、ほぼ持っています。