第1回 都心から約90分の「トカイナカ」

ときがわSTYLE

東京から90分という距離にありながら、自然豊かな埼玉県比企郡ときがわ町には自ら仕事を創りたいと考える若者たちが集まってくる。そんな町の「人」と「仕事」を巡る物語――。

文=風間崇志

ときがわ町に集う若者たち

 たとえば、ときがわ町に移住して日本初のキャンプ民泊を開業した夫婦がいる。初めて訪れたとき、「ちっこくて丸い山」と「優しい自然」に一目惚れした。SNSのアカウント名にも「ときがわ」を入れてしまうあたり、かなりの町愛好者である。

 たとえば、ときがわ町出身で、今は町外に住み・働きながら、町の林業を盛り上げたいとダブルワークで製材技術を学び始めた若者もいる。かつて父親が町で製材業を営んでいたが、自身がリフォーム会社に就職して初めてときがわ材のすばらしさに気づき、その価値を日々発信している。

 たとえば、ときがわ町出身でもなく移住もしていないが、町が好きで、起業して町に関わる仕事を手がける若者もいる。いわゆる「関係人口」というやつだが、実はこれは私のことだ。私は2018年8月から2年以上、ときがわ町に通い続けている。ここでお話することは、すべて私の目を通して見たり、実感したりしているノンフィクションである。

ときがわ町

豊かな緑に抱かれたトカイナカ、ときがわ町

都会と田舎のかけ橋となる町

 ときがわ町は、仕事を創る人を生む、いわばインキュベート機能を有している町だ。「インキュベート」とは「保育、孵卵(ふらん)、培養」の意味。転じて、ベンチャービジネスが軌道に乗るまで支援・育成することなどにも使われる。本連載では、町のインキュベート機能に焦点を当てることとしたい。

 トカイナカとは言い得て妙だ。「超」がつくほどのド田舎ではないけれども、決して都会でもない。都会からド田舎に続く玄関口のような田舎。都会のすぐ近くにある田舎。都会と田舎のかけ橋のような場所としてのトカイナカ。それがときがわ町だ。町のホームページにある渡邉一美町長のメッセージには、町の特色がギュッと詰まっている。

〈田舎にこそ夢がある~ときがわ町~ 平成18年2月に旧玉川村と旧都幾川村が合併し、ときがわ町として新たなスタートを切りました。奥武蔵の山々から流れる一級河川「都幾川」に沿って集落を形成し、昔から林業と建具を地場産業としてきました。近年は、この自然豊かな土地柄を売りに、標高差800mの立体的な地形の中にさまざまな癒しの観光スポットを用意し、来町客をお迎えしています。子育て世代や自然農法に取り組む若者にも人気です〉

 06年に合併して誕生した比較的新しい町で、町域面積55.77キロ平方メートルの約7割は山林。中山間地のご多分に漏れず、少子高齢化や人口減少が進んでいる。だが、ときがわ町のインキュベート機能が、仕事を創りたいと考える若者を呼び、そこで生まれる出会いがさらに出会いを生み、仕事を生み出している。

 そのようなときがわ町が持つインキュベート機能とはどのようなものなのか。そこからどんな人々の活動が生まれているのか。次回以降、じっくりお楽しみいただきたい。

執筆者プロフィール

風間崇志(かざま・たかし)
1981年生まれ、埼玉県草加市出身。妻、一姫二太郎の4人家族。2006年、まちづくりを志し、越谷市役所に入庁。農業や商工業、伝統工芸振興、企業誘致などに携わり、多くの新規事業を手がける。
18年に比企起業塾の第2期を受講し、20年に個人事業主として起業。屋号は「まなびしごとLAB」。埼玉県比企郡や坂戸市を中心に、行政や中小企業のお助けマンとして、企業支援や地域活性化、地域教育、関係人口づくり、ローカルメディアづくりなどに取り組む“まちづくりすと”
https://www.manabi-shigotolab.com/

風間崇志
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