学んで!埼玉

首都のベッドタウンと呼ばれながら、埼玉県には東京にのみ込まれない伝統と個性を持った学校が多くある。教育、社会運動を専門とし、各メディアで活躍するジャーナリスト・小林哲夫が「教育県」の素顔を探る。

第10回 “あの学校”が舞台の青春小説が読みたい!

小林哲夫

実はこんなに……埼玉県の高校、大学出身の文学者たち

 2019年8~9月、県内の紀伊國屋書店3店舗(浦和パルコ店、川越店、さいたま新都心店)で、「活躍する卒業生 文教大学編」が開催された。

 このとき、18年度に芥川賞を受賞した高橋弘希さん、同年度の直木賞を取った真藤順丈さんの著書がズラリと並んでいた。2人とも文教大OBで、高橋さんは文学部中国語中国文学科、真藤さんは文学部日本語日本文学科で学んでいる。1990年代後半のことだ。

 学生時代の2人はどうだったか。真藤さんは、自主映画やウェブコンテンツの制作、高橋さんはバンド活動に熱中している。文教大は文学部が埼玉県越谷市のキャンパスにあり、2人はここで才能を伸ばした。

 文教大は真藤さんの受賞を喜んだ。大学の公式ウェブサイトでこう告知している。

〈真藤さんは、2008年に小説「地図男」で文壇デビューし、同作品は第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞しています。今回の作品で、初めて直木賞候補となりました。文教大学の卒業生としては、第159回芥川賞受賞の高橋弘希さん(文学部卒業)に続く受賞となりました〉(19年1月17日)

 埼玉の大学出身の作家はほかに誰がいるだろうか。文学賞受賞者の出身校をみると、埼玉大からは3人いた。芥川賞の池澤夏樹さん、江戸川乱歩賞の鳥羽亮さん、文藝賞の岡田智彦さんだ。鳥羽さんは教育学部出身で越谷市内の小学校で教壇に立ち、教頭職も務めた。

 また、松本清張賞の横山秀夫さん(東京国際大。在学時は国際商科大)がいる。市川拓司さん(獨協大)の『いま、会いにゆきます』はベストセラーになった。

写真:photoAC

高校、大学での経験が作品の礎になる

 県内の高校出身の作家では、県立川越高校の卒業生が多い。奥泉光さんは芥川賞、冲方丁さんは吉川英治文学新人賞を受賞した。盛田隆二さんは三島由紀夫賞の候補となった。内田康夫さんは賞に恵まれなかったが、「浅見光彦シリーズ」で知名度が高い。著書の累計発行部数は1億部を超える。本橋信宏さんは『全裸監督』を著し、同書を原作とした映画が話題になった。

 ほかに県内の高校出身者としては、芥川賞受賞者の青山七恵さん(熊谷女子高校)と町屋良平さん(越ヶ谷高校)、直木賞の北村薫さん(春日部高校)、荻原浩さん(大宮高校)がいる。また、日本推理作家協会賞の折原一さん(春日部高校)、吉川英治文学賞には『人間の証明』の森村誠一さん(熊谷商業高校)がいる。

 文学作品とその作家が学んだ高校や大学のあいだに因果関係を見出すのは無理筋である。しかし、自伝的色彩が濃ければ、高校や大学での生活を読み取れる。この高校、大学での経験がこれほどすばらしい作品を生んだのかと、想像するだけでも楽しい。埼玉の高校、大学は魅力的でおもしろい。そんな感動を与える青春小説を読みたい。

執筆者プロフィール

小林哲夫(こばやし・てつお)

教育ジャーナリスト。教育、社会問題を総合誌などに執筆。新刊『「旧制第一中学」の面目 全国47高校を秘蔵データで読む』(NHK出版)のほか、『平成・令和 学生たちの社会運動 SEALDs、民青、過激派、独自グループ』(光文社新書)、『神童は大人になってどうなったのか』(朝日文庫)、『学校制服とは何か その歴史と思想』(朝日新書)など著書多数。

小林哲夫

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