第2回 未来を照らす光を森に届ける。森の保安官・松岡茂樹さん

尾内あゆみ

埼玉コンシェルジュ 尾内あゆみレポート

長年の取材の中で出会った人やお店、名品など隠れた埼玉の魅力をお伝えします!

「レッツ! キラメキー!」

 森の中に子どもたちの声が響きます。バリバリバリ……。見上げながら木の皮をむくと、ツルツルになった木肌がお目見え。あまりの綺麗さにその表面を舐めてしまう子もいるほどです。森の中で木に触れ、空気を吸うことでみんなの目がキラキラと輝いていきます。


「楽しく林業をして、安心して生活できる未来を作りたい」


 森の保安官、フォレスターズプラス代表の松岡茂樹さんにお話をうかがいます。

一斉に木の皮をむく子どもたち
一斉に木の皮をむく子どもたち

森との出会い

 宮崎県で農業と林業を営む家庭の次男として生まれた松岡さん。人が好き、特におじいちゃん、おばあちゃんが好きだったことから介護士を目指して上京しました。そこで、男性が看護師として活躍し始めたことを知り、その道を志します。

 勤務地は、埼玉県の毛呂山町にある埼玉医科大学病院でした。看護師として活躍する傍らで続けていたのが、全国各地で相次いだ災害の支援・ボランティア活動です。そして2016年、熊本地震の災害支援をしていた時に、日本の森が雨に弱い現状を知りました。

看護師時代の松岡茂樹さん
看護師時代の松岡茂樹さん

 日本は、国土の約7割が森林という豊かな森林大国です。しかし戦時中、軍需用材などに使用するため、多くの木が切り倒されました。戦後の生活が豊かになるにつれて、さらに需要は増加。成長量の多い人工林が盛んに植林されました。日本の森林の約4割は人工林です。

 一方で外国から安価な木材が輸入されるようになり、現在の国内自給率は全体の4割ほど。林業の高齢化も進んで、人工林のほとんどが手入れをされないままで残っています。人工林の場合、手入れをしなければ森の保水機能が下がり、土壌が軟弱化。土砂災害の頻発につながります。

こどもでもできる林業

 登山やアウトドアが好きで、家業が林業だったこともあり、森に興味を持った松岡さんは20年近く続けた看護師を辞職。2018年、毛呂山町を拠点に日本の森の再生を目指す「フォレスターズプラス」を立ち上げました。毛呂山町は首都圏を中心に使用されている埼玉県産の優良木材「西川材」の産地の一つです。

 まず取り組んだのは、森の間伐作業。密に植樹されていることが多い人工林は、間伐しないと暗く、土に栄養がいかないため、下草が生えません。草が根を張らないと土が弱り、大雨の際に水を吸い込むことができなくなって土砂災害などにつながってしまうため、間伐して光を入れることが重要なのです。

 フォレスターズプラスが取り組んでいるのは「皮むき間伐」。木を切らず、立った状態のまま皮をむくことで間伐する方法です。木は皮をむくと水や栄養分を吸い上げられなくなり、ゆっくりと乾燥して枯れていきます。自然に乾燥させることでひび割れなどが減り、重量も軽くなるため、切り倒しや運び出しが簡単になります。

 松岡さんは、森のことや皮むき間伐を多くの人に知ってもらうため、イベントを開催しています。イベントではまず、日本と埼玉県の森の現状を伝えます。その後、グループを作って一斉に木の皮をむきます。

 活動を始めてからの3年間で参加者はのべ1000人。子どもの参加も多く、最年少は3歳です。きれいな空気を吸い、木に触れることで、参加者の目の輝きがみるみる変わっていくそうです。

 皮むき間伐の愛称は「きらめ樹(きらめき)」。松岡さんは、楽しみながら活動に参加してほしいと、皮をむく時にはみんなで「レッツ! キラメキー!」とさけびます。重労働で過酷なイメージのある林業を、楽しくて自分もやりたいと思えるものに変えたいと松岡さんは話します。

松岡さんの森の話に耳を傾ける参加者たち

松岡さんの森の話に耳を傾ける参加者たち

皮をむいて木を枯らせ、森に光を入れる

皮をむいて木を枯らせ、森に光を入れる

くずれない山を作りたい

 現在は10人のメンバーで毛呂山町をはじめとする近隣6市町で活動するフォレスターズプラス。切り出した木を加工し、6次産業化に取り組んでいます。毛呂山町では木の丸い部分をそのまま生かした木肌のぬくもりあふれるベンチを製作。バスの停留所などに設置されています。「私たちが安心して暮らすために、くずれない山を作りたい」と話す松岡さん。安定して収入が得られる仕組みを作り、もっと仲間を増やしていきたいそうです。

 2021年春、松岡さんは家業の都合で生まれ故郷の宮崎に帰ります。これからは、熱い思いを受け継いだ仲間たちに協力するかたちで活動に携わっていきます。

毎日の地道な活動が、未来の日本を照らす光になる!

 安心して生活できる未来を次世代につなげるために、フォレスターズプラスの活動は続きます。

イベント参加者たちと。前列左から2人目が松岡さん
イベント参加者たちと。前列左から2人目が松岡さん

松岡茂樹さんのインタビュー動画を見る


【フォレスターズプラス】
:埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷152−2
https://forestersplus.com/index.html
info@forestersplus.com

執筆者プロフィール


尾内あゆみ(おない・あゆみ)
1985年生まれ、所沢市出身、飯能市在住。高校卒業後、入間ケーブルテレビグループに入社し、14年にわたって入間市で取材・番組制作に携わる。2017年より毛呂山町にあるゆずの里ケーブルテレビへ。制作編成課課長として番組を制作。長年の取材で得た知識をもとに埼玉の魅力を掘り下げる“埼玉コンシェルジュ”。
あゆなびチャンネル(YouTube)

尾内あゆみ


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