首都のベッドタウンと呼ばれながら、埼玉県には東京にのみ込まれない伝統と個性を持った学校が多くある。教育、社会運動を専門とし、各メディアで活躍するジャーナリストが「教育県」の素顔を探る。
文=小林哲夫( 教育ジャーナリスト)
ロケ地として重宝される埼玉県立大
いま、テレビ局ドラマ制作担当者が頭を抱えている。コロナ禍でロケ地を確保できない。撮影御用達だった公共施設がいくつも立ち入り禁止となっているからだ。このなかには大学も含まれている。
埼玉県立大(越谷市)はドラマのロケ地としてテレビ局から重宝されている。2019年は『Miss!? ジコチョー~天才・天ノ教授の調査ファイル~』(NHK)、『ランウェイ24』(テレビ朝日系)など、2018年には『相棒 season17』(テレビ朝日系)、『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)などが撮影に使われた。
しかし、2020年は同大学にカメラは入らなかった。「新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、学内での感染防止のため、大学の講義室・体育館・テニスコートなどの施設等の貸し出しは、当面の間、中止」(大学ウェブサイト)となったからである。
埼玉県立大でもっともよく使われている施設が、全面ガラス張りの校舎だ。延べ床面積もかなり広く、大学としては斬新なデザインということらしい。この校舎は『医龍 Team Medical Dragon』『サラリーマン金太郎』『SP 警視庁警備部警護課第四係』『ハンチョウ〜神南署安積班〜』『アンフェア』『ドクターX~外科医・大門未知子~』など高視聴率ドラマに登場している。
撮影は原則として、学内行事がない土・日曜日、祝日または夏休み(8月中旬~9月下旬)、春休み(2月下旬~3月下旬)に限っている。たまたま居合わせた学生がエキストラで登場する、学内の掲示板にエキストラ募集を張り出して学生が撮影に協力することもある。
大学からすればドラマは撮影何でもOKというわけではない。埼玉県立大学関係者はこう話す。「やたら人が殺されたり、血しぶきがあがったりするようなグロテスクなものは避けるようにしています。また、不祥事を起こしたなど大学の名誉を傷つけるようなストーリーもダメですね」。
ドラマの舞台になるのも社会貢献の一つ
埼玉県内にはドラマのロケ地となる大学がいくつかある。
跡見学園女子大マネジメント学部(新座市)は『相棒』の舞台となった。駿河台大(飯能市)は、『過保護のカホコ』(日本テレビ系)で高畑充希、竹内涼真が演じる大学生が通う「稜青大」として描かれた。同大学の学生がツイッターで「うちの大学で高畑充希と竹内涼真がドラマ撮影しとる!」と発信すると、多くの学生が集まったようだ。
城西大(坂戸市)は『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)のロケ地となった。ヒロインは深田恭子で、「城西大学に深キョンが来た!」と同大学の学生のあいだでおおいに盛り上がったという。
キャンパスがドラマのロケに使われるのは、大学にとっては、①受験生にアピールできる、②在校生やOB・OGの愛校心を高める、という理由でありがたい話だ。
大学は学生の学びの場にとどまらない。公開講座など地元住民の知を満たしてくれる。そしてドラマを通して、美しいキャンパスは人の心を和ませてくれる。もはや観光地である。ぜひ、足を運んでみよう。これは大学の社会貢献の一つである。
グッドデザイン賞も受賞している埼玉県立大学のキャンパス
小林哲夫(こばやし・てつお)
教育ジャーナリスト。教育、社会問題を総合誌などに執筆。新刊の『神童は大人になってどうなったのか』(朝日文庫)、『学校制服とは何か その歴史と思想』(朝日新書)、『大学とオリンピック 1912-2020 歴代代表の出身大学ランキング』(中公新書ラクレ)をはじめ著書多数。