首都のベッドタウンと呼ばれながら、埼玉県には東京にのみ込まれない伝統と個性を持った学校が多くある。教育、社会運動を専門とし、各メディアで活躍するジャーナリスト・小林哲夫が「教育県」の素顔を探る。
県内の大学附属系列校に埼玉出身者枠を
大妻嵐山高校、慶應義塾志木高校、東京成徳大学深谷高校、東京農業大学第三高校、武蔵野音楽大学附属高校、立教新座高校、早稲田大学本庄高等学院。埼玉県内に所在する大学の附属系列校である。これらにはおもな共通項が見られる。大学の本拠地が東京都内にあることだ。
立教新座高校と同じ敷地には、立教大新座キャンパスがある。観光、コミュニティ福祉、現代心理の3学部の学生が通うが、立教大のメインキャンパスは池袋だ。また、早稲田大は県内に所沢キャンパス(スポーツ科学部、人間科学部)を構えるが、本拠地は都内の早稲田にある。
内部合格率が高いのは、早大本庄100%、慶應志木98.8%、立教新座83.9%となっている(2021年、大学通信調べ)。早慶立へのいわば近道ゆえ人気が高く、いずれもこれらの高校に内部進学するための中学入試は難関だ。このうち早大本庄、慶應志木に埼玉県出身者はどのぐらい通っているだろうか。
慶應志木の生徒732人の居住地は埼玉349人、東京270人、神奈川41人、千葉62人などとなっている(21年、同校ウェブサイト)、早大本庄の生徒883人の出身中学の地域別は埼玉426人、東京256人、神奈川64人、群馬55人など(20年、同校パンフレット、海外出身は除く)。いずれも県内が半分を切るのはさびしい。
大学の附属系列の学校が本拠地と離れた地域に所在するのは、その地域つまり、埼玉県内の優れた生徒を集めたいからだろう。半分いや6割以上は埼玉県出身の生徒が通ってほしい。そのためにも埼玉枠を設けたっていいではないか。
これらとは反対に、県内の大学で、県外に附属系列校を持っている大学がある。十文字学園女子大(十文字高校)、聖学院大(女子聖学院高校)、獨協大(獨協高校)、文教大(文教大学付属高校)などだ。内部合格率は十文字高校12.1%以外、いずれも1ケタである。さびしい。
とはいっても、仕方がない側面がある。地元の高校、あるいは難関大学進学実績が高い高校に通いたかった。縁があまりない、埼玉の系列大学への進学ははじめから考えなかった、という生徒は少なくないからだ。だが、せめて2割はほしいところではある。系列校同士でうまく連携をとってほしい。
県内の教育を盛り立てるには、元気な学校を増やすのが一番である。そのための一つの方策として、附属系列校を増やすことだ。明治大、法政大、中央大は附属系列の世界では埼玉未開拓である。だからこそチャンスはある。
県内には少子化に対応できず生徒が集まらない。そんな経営難の私学がいくつかある。大学附属系列化する選択肢があっていい。大学も生徒確保で附属系列校を増やしたい。利害の一致をみる。一度、大学に相談してはいかがか。
小林哲夫(こばやし・てつお)
教育ジャーナリスト。教育、社会問題を総合誌などに執筆。新刊『平成・令和 学生たちの社会運動 SEALDs、民青、過激派、独自グループ』(光文社新書)のほか、『神童は大人になってどうなったのか』(朝日文庫)、『学校制服とは何か その歴史と思想』(朝日新書)、『大学とオリンピック 1912-2020 歴代代表の出身大学ランキング』(中公新書ラクレ)など著書多数。