トカイナカから掘り起こした物語、眠っていた鉱脈、やっと出会えた人、
長い間のラプソディ。そんな宝物を折々に綴ります。
トカイナカからの贈り物──。
世界からファンがやってくる「金では買えないものの殿堂」= 埼玉県所沢市のB宝館にて
埼玉に新居を構えたのは1985年、今から35年前、全くの偶然でした。その頃、経済企画庁にいて経済モデルを動かしていたら、バブルの到来がわかった。まだバブルという言葉もありませんでしたが。
そこで土地を探したら、当時年収300万円の私に買えたのが坪50万円、妻の実家に近い所沢だったんです。戸建てにこだわったのは、当時から始めていたコレクションのために一部屋必要だったから。川崎市溝ノ口から越してきました。
都心(中央区八丁堀のマンション)とここの2拠点生活になったのも偶然です。2000年から「ニュースステーション」(テレビ朝日)に出始めて、当初は景気がよかったからテレビ局がホテルを借りてくれたんです。でも会社を辞めて事務所が必要になったので、マンションを手に入れました。
当時は平日は全部東京にいて、週末だけ帰って来た。その頃から「トカイナカ暮らし」と言い始めたのかな?でも、あまり人は振り向いてくれませんでしたが、コロナで一気に変わったんです。
だって都市住民が皆、不幸になった。東京の一番の魅力であるおいしいレストランやエンターテインメントに外出自粛で行けなくなったんですから。なんのために高い家賃を払うのか?馬鹿らしいと思った人がたくさんいると思います。
こちらのトカイナカ生活は全くストレスがありません。私はこの間、極力東京には出ないようにし家で本を5冊書いてめちゃくちゃ忙しかった。段ボールに入っているコレクションを出してB宝館(森永氏が50年間集めてきたコレクション約10万点を展示)に陳列もしました。
人の生活に必要な教育、医療、福祉もここには全てそろっています。お受験はないけれど、必要な教育はある。医療も福祉もある。父が都心で老人施設に入ろうとしたら、月に40万円で入居金が1億円と聞いてびっくりしました。
所沢の施設なら入居金はタダ。比べると設えがホテルみたいに豪華なのか、質素なのかの違いだけ。それで大金を支払うのはナンセンスですよ。
森永さんに(右)にインタビューする筆者 写真=北村崇
一昨年から始めた農業は、コロナ前までは群馬県の昭和村に畑を借りていたんですが、遠出ができてなくなったので近場で借りたら、これがまた素晴らしい。コミュニティーがあって肥料も種も土もくれる、耕運機も貸してくれる。全部タダ。資本主義じゃない世界です。
そこで私は栽培では失敗に失敗を重ねるんですが、見かねた人が作り方を教えてくれてできたのが奇跡のスイカ!人生で一番おいしいスイカができました。10個のうち1個を大家さんにあげて、それで地代もタダ。
私の専門は厚生経済学といって「どうやったら人を幸せにできるか」を考える学問なんですが、答えは一つ。トカイナカ生活ですよ。
執筆者プロフィール
神山典士(こうやま・のりお)
ノンフィクション作家、埼玉トカイナカ構想代表。1960年生まれ、埼玉県出身。入間市立豊岡小・豊岡中、埼玉県立川越高校卒業。ときがわ町トカイナカハウスでの生活を満喫中。美味しいうどんや野菜、懐かしき昭和テイストの温泉、移住者たちとの交流、あとは地元の皆さんとの交流を画策しています。著書に『成功する里山ビジネス ダウンシフトという選択』(角川新書)など多数。また、今秋に『トカイナカ暮らしの流儀』(仮題)を上梓予定。