川越市100年の歴史を学びながら、その品格を表現していきたい ~ kawagoe premium発行人・櫻井理恵氏

 年間観光客775万人(コロナ前)を誇る川越市。その魅力をふんだんに盛り込んだフリーペーパー『kawagoe premium』は、市内約70カ所の店舗や施設で配布されるとあっと言う間になくなってしまう超人気誌だ。2015年に発刊され、6年間で6号発行された。気になる次号は「2021年内に発行予定」と超ゆるゆる誌でもある。いったい誰がどんな思いで発行しているのか?

 市内札ノ辻にある、創業100年(2024年)を目前にした櫻井印刷所を訪ねた。発行人である同社4代目社長の櫻井理恵氏が語る。

『Kawagoe premium』。2015年10月創刊、発行4000部、16年、「日本タウン誌・フリーペーパー大賞2016」大賞受賞、21年に第7号発行予定

 そもそもこのフリーペーパーは会社案内を作ろうとして生まれたものです。社長に就任する前後に、弊社にはオリジナル商品がないことに気付いた。企画もデザインも執筆や撮影もできるのに、すべてお客様の企画商品だから、弊社は単なる業者になってしまっていた。そうではなくてお客様のパートナーとしてより上質なものの企画製作を目指せますよという意味で、自分たちで納得できる会社案内を作ることにしました。

 私は大学院修了まで東京にいて、川越をあまり振り向かないできました。でも26歳で家業に入ってみて、自分の知らない川越の歴史や地域のことに興味が向きました。それまでも観光冊子はたくさん出ていましたが、そうではなくて私が興味深いと思うもの、面白がれるものを探して、生活者の視点で深掘りしていきたいと思った。

 たとえばお祭を取り上げるなら、その準備とかその日の食事とか、川越の人が「あっ、ここ知ってる」「昔はこんな感じだったわね」って言ってもらえる冊子にしたかったんです。会社案内ですから無料だし広告も入れません。その分誰にも忖度しないで済むし、自分の興味、疑問、感覚に素直に従って企画編集できる。

 これまでには明治期の人気織物川越唐桟などを特集しました。次号では大正期の川越出身の日本画家、小村雪岱を特集します。企画も取材も執筆もほとんど私です。みんなが寝静まった夜中に書きます。それがまた楽しいんです。

 この冊子を作り始めてから、自分たちもお客様も意識が変わったと思います。今は、若い頃には考えなかった「地域が存続すること」を意識して企画編集しています。子どもも産まれましたし、それは自然なながれだと思います。

 弊社は100年前から情報を扱う企業なのですから、たとえ媒体は紙以外に変わっても、今後もその軸はぶれないようにしたいです。お客様もこの冊子を見て、ただ安ければいいではなく、良質な情報を発信することの意義を感じてくださっています。

 これからもっともっと川越と弊社の100年の歴史を勉強して、川越の品格を表現する冊子を作り続けていきたいと思っています。

プロフィール

櫻井理恵(さくらい りえ)

1980年生まれ。成城大大学院文学研究科修了(ドイツ文学専攻)。株式会社櫻井印刷所の四代目として2014年、取締役社長に就任。大学院在学中の編集・執筆業の経験から2015年に『kawgoe premium』を発行。16年「全国タウン誌・フリーペーパー大賞」で大賞受賞。17年に同社代表取締役に就任。印刷業をベースに川越市内限定のポータルサイトアプリ「コエドノコト」開発や、自社ブランド「文星舎」の立ち上げなどを行う。4児の母。

櫻井理恵さん
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