衰退したニュータウンの「魅力」を発掘して「再生」する若いエンジン 〜鳩山ニュータウンに集う若者たち

本家さん菅沼さんが経営するニュー喫茶幻、1970〜80年代をテーマにした音楽と作品が楽しめる。集まるお客さんも高度成長期を知る世代が多い

「私は趣味と実益を兼ねて、鳩山ニュータウンに賃貸用の不動産物件を購入しました」

 そう語るS・Nさんは30代半ばのOLだ(取材時、現在は退職)。東武東上線沿線の自宅から約1時間かけて約40回も現場に通い、自分で室内のリノベーションと庭の草取り、整備をしたという。

 若い女性が「トカイナカ」で投資家になる! しかもセルフリノベで!! それはいろいろな意味で驚きだったが、不動産投資家の間ではトカイナカは人気なのだそうだ。S・Nさんの場合、4LDKの物件で購入費とリノベ費を合わせて約600万円で賄えた。その結果──。

「状態がいいのに初期投資が少なく済んで利回りがいい。私の物件は年利15%くらい。ベテラン投資家になると利回り20%の物件を持つ人もいます」

 昭和40年代に分譲された鳩山ニュータウン(比企郡鳩山町)は、住民の高齢化が進み、埼玉県内でも有数の空き家率を「誇って」いた。池袋から電車で1時間以上かかり、駅からも10分ほどバスに乗らないといけない。

 けれどコロナになって「脱都会」のムーブメントが起き、リモートワークが一般的になって風向きが変わった。「時々は都内に通える町」「手ごろな価格で一軒家が買える町」。約半世紀ぶりに再び脚光が当たったのだ。

 ではS・Nさんが冒頭で語った「趣味」とは何を指しているのだろうか?

「それはニュータウンの中心部にある『鳩山コミュニティ・マルシェ』を管理している本家さんと菅沼さんの存在です」

 彼女が語るこの夫妻はアーティストだ。本家さんはミュージシャン、菅沼さんは「高度成長期」をテーマとする現代美術作家。同マルシェの指定管理者となった藤村龍至・東京藝術大准教授の建築事務所(RFA)のスタッフで、人口減少高齢化で衰退するニュータウンに新しいコミュニティーを作るために派遣された。マルシェの運営だけでなく、ニュータウンに求めた自宅の一部を改造して「ニュー喫茶幻」を開業(不定期営業)。住民たちのサロンにしたり、「出前御用聞き」を行って高齢者の生活支援をしたりもしている。

 その存在を知って、同世代のS・Nさんは親しみを持ったと言う。「私はそもそもイラストレーターとして独立したいので、その準備として投資を始めました。セルフリノベをしていたら、家がアートのように思えてきて、菅沼さんのアートに親しみを覚えたのです」

 ニュータウンの人口は年々減少し、中心部はシャッター商店街となった。けれどマルシェでは連日「日替わりシェフ企画」が実施され、少しずつ賑わいも戻ってきた。

 S・Nさんの物件は、RFAが企画した「空き家ツアー」に参加した大学生(現在建築家)がシェアハウスとして借りている。RFAももう一軒を学生用のシェアハウスとしてリノベして、町には若い活気が出てきた。

 鳩山町に現れた新しいプレイヤーたち。彼らが従来にない発想と行動力で、トカイナカの魅力を掘り起こすエンジンとなる。


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