アトリエ日記 vol.1 画家的デュアルライフ

あんずの花里物語

思わず微笑んでしまうリリカルな画風で大人気の蟹江杏の世界観を、作品とエッセイでお届けします。

「私の庭」
 

森で生活をしていると、
元来ガサツな性格の私は
より一層ガサツ女子になってしまいます。

職業柄、絵の具がベッタリついた作業着を何着も持っていて、
東京のアトリエでは、これを毎日着回して絵の製作をしています。

私は一年のうちの春と夏は
軽井沢のアトリエで描く時間が多くなります。

東京では毎日まめに取り替えているこの作業着を、森の中にいると
3日以上、いや、ひどい時は一週間、
着続けてもへっちゃらになってしまうのです。
さらに化粧もしなくなり、髪をとかすことすら忘れてしまいます。

朝は小鳥におこされ、歯を磨くより先に、絵を描きはじめ、
自分の性別も年齢もわすれて仕事をしています。
それは、森に住む生物達の力なのか、
澄んだ空気のおかげなのか……。

あらゆる生命の色が幾重にも重なって現れる森の中は、
なんにしろ東京で描くよりはるかに集中力が増すから不思議です。
ですから、森のガサツ女子に変身出来ることは、
私自身、満更じゃありません。

都会で人脈よろしくキラキラパーティーピーポーでいるより
ずっと楽ちんだし、
なにしろ仕事の効率がよいのですから。

だけど、静かな山の中でふと我に返り、
もう何日も鏡を見ていない自分に気がついて、
おそろしくなる時があります。
40歳を過ぎた独身女性がこんな事でよいのだろうか……
このまま、森のガサツおばさんになってしまうのではないか。

SNSを覗けば、同世代の美しい女性達が爪の先までキレイに飾り
都会でめくるめく素敵生活を送っている様子ではないか。
こりゃまずいな、と……。

こうなると、この流れで、
荷造りをして、念入りにお化粧をして、
慌てて東京のアトリエに戻るわけです。
東京に戻れば、お洒落をして出掛けたり、お肌のケアに励んだり、
白髪染めをしてみたりします。

もどらずそのまま山に居続けたら、
ガサツおばさんならまだしも、
山姥になっていたところだったぞ、
一旦、引き上げて大正解、
と毎回おもいます。

けれど、しばらくすると、
やっぱり都会が窮屈になり、
またムズムズと森に帰りたくなってしまうのです。

我ながらバランスの取れた二拠点生活。

いまは、軽井沢の森は凍りつく寒さで、
夏仕様の我がアトリエでは生活が困難なため、
残念ながらガサツ女子に変身はできませんが、
冬の間に、都会でしっかり女子力を高め、
また、スミレの花が咲き始める頃に
森に帰ることを楽しみに待とうとおもいます。

 
「私の庭」

タイトル:「私の庭」
サイズ:220×424mm
シート価格(税込):57,200円
額装価格(税込):64,000円

蟹江杏コレクション

執筆者プロフィール

蟹江 杏(かにえ・あんず)

画家。東京生まれ、埼玉県飯能市の「自由の森学園」を卒業。「NPO法人3.11こども文庫」理事長。ロンドンにて版画を学ぶ。美術館や全国の有名百貨店など、国内外で多数の展覧会を開催。新宿区・練馬区・日野市をはじめ各地の都市型アートイベントにおいて、こどもアートプログラムのプロデュースを手掛ける。東日本大震災以降は、「NPO法人3.11こども文庫」理事長として、被災地の子ども達に絵本や画材を届けたり、福島県相馬市に絵本専門の文庫「にじ文庫」を設立するなどの活動を行う。また、2020年から「SDGs JAPAN」と連携し、アートやアーティストがどのようにSDGsに貢献できるかを、様々な分野のアーティストとともに模索、牽引していく。

https://www.atelieranz.jp

蟹江 杏
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