蟹江杏アトリエ日記vol.23(最終回) デュアルライフのススメ

素敵な独り

どんな物事にもいつかは終わりがやってきて、
連載もまた必ず終わりがやってきます。
はい〜。
早いもので23回目、この「あんずの花里物語」も今回で最終回。
さみしいなあ〜。

散々、好き勝手なエッセイを書かせていただきましたが、
そもそも、森と都会のデュアルライフを中心にエッセイを書くんだったわ。
ということで、今更で恐縮ですが・・・原点回帰。
真面目にトカイナカについて。
第二アトリエの軽井沢の家。
東京から新幹線で約1時間。
車でも2時間ちょっと。

こんなに近いのにコロナ前は
私は3分の1も使っていなかったシャビーなアトリエ。
それが世界が疫病に悩まされるようになったのをきっかけに、
春から秋にかけて、1年の半分は軽井沢の森にこもって絵を描く生活になりました。

森での生活は私に大きな変化をくれました。
時間の概念。
食への関心。
空への憧れ。
生物達との共存。
それらを経て私の中で、
絵の描き方にも大きな変化がありました。

野生生物の定点観察が叶ったことでモチーフの描き方が変わりました。
季節の採れたての色彩豊かな食物を身体に取り込んでいることで
色の見え方が変わりました。
身近にいる植物や生き物の名前を知りたくてたまらなくなり、
調べて覚えると、鳴き声や気配だけで、
たとえ姿が見えずとも彼ら彼女らが森で活動している姿を
容易に想像できるようになりました。
命の名前を知るってこんな効果があるんだなあ・・・。

「アートはバイオミミクリーである」
と常々頭では思っていたけれど、
この3年間で実感したというわけ。

都会から数時間離れた場所で生活をする。
たった数時間離れただけ。
私はただ単に自然賛美をしたいわけではありません。
不思議なことに、森から都会に帰ってくると、
都会の良いところも悪いところもわかるようになって、
必要なものと不必要なものがハッキリしてきます。
そもそも日本はみんな東京に集まり過ぎてるなあと、気がつきます。
でも、都会生活も楽しいよね〜。

2019年末にコロナ禍になって、
他人を遮断して1人になるために森のアトリエにいることが多くなりました。
けれど、都会と森を行ったり来たりしているうちに、
むしろ、独りになりたい時に東京に戻ってくることが
多くなっていることに気がつきました。

森の「1人」と、都会の「独り」には大きな違いがあります。
森では、実際に1人きりでいても、
朝が来れば窓から野鳥のヤマガラが話しかけにやってきたり、
時にはアサギマダラ(渡りの蝶)がテラスに迷い込んできたりします。
世界の美しい変化が目まぐるしくて、
見ること、感じることで時間がアッという間に過ぎます。
そんな中、近所の方(人間)が突然、差し入れを持ってきてくださり、
お茶しようなんてなった時には
慣れない私は気持ちの切り替えに戸惑うこともあります。

その反面、東京では知らない人達に埋もれながら電車に乗って、
今後の仕事につながるかもしれないクライアントとの打ち合わせや、
プライベートで友人達とお酒を飲んだり
楽しくおしゃべりしたりする時間を簡単に持てます。
他人との境界線を引きたい私は良い意味で「独り」を確保しようと努めるからか、
多くの人に会っている時ほど、自分自身への意識が高まります。
打ち合わせや、様々な情報に追われるので
やっぱり時間はアッという間に過ぎてしまいます。

「1人の時間」と「独りの時間」をこうして並べてみると、
私の人生はどこにいてもアッという間なのかなと思いました。
え? しかも、私、1人、独りって、無意識に連発・・・寂しくないっ!!??笑
いやいや、そうも言ってられません。
人生がアッという間ならばこそ、豊かな時間を過ごしたいと、心から思います。
これから私はどこでどんな時間を選択していこうかな。

森では、大好きな野鳥や虫達が待っています。
漆黒の夜があります。

都会では、美術館で最新の絵画に触れたり、流行のレストランで食事もできます。
眠らない夜があります。

それは私にとってはどちらも魅力的。
デュアルライフはこれだからやめられません。

さあて、そろそろお別れです。
いつも、トカイナカジャーナル「あんずの花里物語」を
楽しみにしてくださっていた読者の皆様、本当にありがとうございました。

って、またすぐどこかで、お会いできる気もいたしますが・・・笑。
皆様がこの出会いをきっかけに
トカイナカに遊びにいらしてくださったらうれしいです。

素敵な独り

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