数年前の話です。
人生初の開腹手術を終え、めでたく退院し
アルコールの許可もお医者様からしっかり頂いたので、
さあてと、退院祝いでビールでも飲もうと、回転寿司に行きました。
琥珀色の液体の上の美しい白いアワアワ、
この時を待っていましたと、
上機嫌で久々の生ビールをひとくち飲みましたが・・・
なんだか、ちっとも美味しく感じません。
そんなはずはない・・・と一気にグッと飲み干しました。
すると美味しいどころか、
胸のあたりがギュギュギュと締め付けられる感覚に襲われ、
そのままみぞおちに激痛・・・
慌ててお会計を済ませて、這うようにして家に帰りました。
家に帰ってベッドで横になっていても、痛みは一向に治らず、
みぞおちどころかお腹全体が痛くなり、
これはどうもおかしいぞ、ということで、タクシーで病院に逆戻りしたのです。
手術したばかりで、尋常でない痛みがあるということで、
緊急再入院があれよあれよという間に決まり、
「ものすごーくお高い個室しか空いてないけど、良いですか?! どうしますか?!」
という看護師さんの言葉にも、痛すぎて頷くしかなく・・・
ホテルのようなお部屋に運び込まれました。
一通り検査が済むと、担当医の女医T先生が、病室にやってきました。
明るく気取らずいかにも賢そうなこの先生を
私はとても気に入っていて、全幅の信頼を置いていたので、
ちょっと辛い検査も治療も素直に受けようと決めていました。
そんな先生がめちゃくちゃハキハキと
元気にこういうのです。
「蟹江さん、ひどい腸閉塞を起こしてます。術後は癒着が起こりやすいんです。
鼻から管を入れて腸を開通させなきゃいけません。
今からすぐに始めたいのですが良いですか?
内視鏡検査のように麻酔で眠りながらというわけにいかず、
ちょっと辛いかと思うけど、やってしまった方が回復が早いので!!」
そんな笑顔で言われたら、
これは大丈夫、言うこと聞けばこの痛みから解放されるんだっ!
と思うじゃないですか。
もちろん「はいっ! すぐにお願いします!」と即答したわけです。
決まればすぐに処置室前に移動しました。
すでに夜も遅く病院内は静かです。
痛みを堪えながら待っていると、担当医のT先生がやってきました。
「急な治療なので、今準備しています。
私は抜けられない仕事があり、今日は別の先生に担当してくださるように頼みました!
とっても良い先生なので安心してね!」
えー、T先生じゃないの〜、
聞いてないよ〜と思っていると、
長い廊下の向こうから白衣の襟を小粋に立てた浅黒イケメン医師が
前髪をかきあげながら颯爽と歩いてくるではありませんか。
ていうか、
白衣の襟立てる必要ある??
日焼けする必要ある??と
内心不毛なツッコミを入れながら
もともとイケメンアレルギーの私は
嫌な予感がして、余計お腹が痛くなる始末。
それでも、感じ良くしとかないとこれから治療で痛いことされたら大変と、
ひきつりながらも笑顔を作って「どうかよろしくお願いします」とご挨拶。
イケメン先生は片手を軽く上げて、
処置室に入って行きました。
いよいよ、部屋に呼ばれると、
イケメン医師とおじいちゃん先生と
2人の看護師さんが待ち構えていました。
立ったまま手足をバンドで固定され、
早速イケメン先生は私の右の鼻の穴にグッと管を入れてくるのですが、
それが痛いのなんのって・・・
「あれ? 右、狭いな入んないなぁ・・・左にしよっ」
おーい、軽く言わないでー、痛い〜。
看護師さんが手を握ってくれるのが唯一の救い・・・。
そのまま、長ーい管は鼻腔から咽喉、胃を通り、腸へ、
身体をベッドごとグルグル動かしながら、体内に入っていきます。
いやいや苦しいって、痛いって!
七転八倒の苦しさの中、ずいぶん時間が経ちました。
管も腸までやっと到着した頃、
イケメン先生がとんでもない事を言いだしたのです。
「あれ? 長さ足んないなぁ。これ、患部まで届かないや」
えー、なんだって?!
いま、あなた、なんて言いましたか?!
やっぱり、白衣の襟立ててるのは無駄だったじゃん!
そして、1時間程かけてやっとの思いで鼻から入れた管をものの数秒で、
シュルシュルと抜いてしまったのです。
すっかりヘロヘロになった私。
また鼻の穴に最初から管を入れ直すわけですが、
ここで、今までずっとその様子をみていたおじいちゃん先生が
はじめて口をひらきました。
「ピッキー、僕が変わるよ」
そして、左鼻腔から管を入れはじめ、
ガンダムを操縦するかの如く、画面に映し出される私の体内を見ながら、
あっと言う間に腸まで到達。
ピッキー!? イケメン医師はピッキーって呼ばれてるのか!
と、思ったのも束の間、
おじいちゃん先生は「これだ、これだ」と患部を見つけ
ものの15分で終わらせてしまったのです。
「はい、終わったよー、よくがんばりました。あれ? ピッキーは?」
とおじいちゃん先生。
「ピッキー、どこかいっちゃいました〜」と明るく答える看護師さん。
おい、ピッキー、なんなんだよ!
同じ長さの管でいけたんじゃん。
しかも、腸への到達みとどけずに帰ったのかよ!
おじいちゃん先生も、できるんだったら最初からピッキーと代わってよ〜。
鼻から腸に入ったカテーテルは、
その後5日間私の体内に留意され、
その間、素敵な病室で、毎日入院費用のカウントに怯えながら、過ごしたのでした。
きっと、若きイケメン医師ピッキーは
勉強中だったのだろうと、解釈し、
お医者様も日々経験と学びなんだなぁ・・・と理解。
ピッキー、次の患者さんには、長めの管使ってね。
そして、なにより、健康が一番大切と、
つくづく感じた出来事でした。
タイトル:「メガネ組」
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