トカイナカ構想の可能性

くらし 山崎 亮

写真提供:studio-L
写真提供:studio-L

地域の人が地域の課題を自分たちで解決するために、人と人がつながる仕組みをつくるコミュニティデザイン。より良いコミュニティを形成するうえで欠かせない「トカイナカ」の魅力と未来を描く。

文=山崎 亮(コミュニティデザイナー)

都会か、田舎か

 冒頭から個人的な意見を記す。高額で都心部の土地を購入した人には申し訳ないが、私はそういう場所で幸せに生活する未来を描くことができない。誤解なきよう申し添えておくが、私は都心を歩くのが好きだ。一度歩いた場所でも、半年後にはまた歩きたくなる。新しい店がオープンしていたり、前回は気づかなかった店の魅力を見つけたりするからだ。

 しかし、それは半年に一度という頻度であり、東京の目黒、大阪の中津、神戸の元町、京都の三条など、場所を変えながら歩くから楽しいのである。だから、これらの場所で生活する必要はない。必要に応じて楽しみに行けば事足りる。

「しからば、お主は自然派か」と問われても困る。かつてイギリスのジェントルマンが都市部でできることをし尽くした後、「私は自然豊かな場所でも生きていくことができるのだ」と顕示した類の能力を私は持ち合わせていない。正直に明かせば、中山間離島地域で数日生活しただけで、「自然過ぎて疲れる」と弱音を吐くタイプだ。

都心部から電車で30分の理想

 そんな私が選ぶ居住地は、都心部から電車で30分ほどの郊外住宅地となる。30分間電車に揺られれば、都心部を歩くこともできるし、主要駅から別の都心部まで移動することもできる。空港も30分ほどで到着できればなお良い。それでいて、逆方向に30分ほど移動すると自然豊かな地域を楽しむこともできる。そんな場所が理想である。

 自宅近くには、友人や来訪者とゆっくり話ができるカフェが数店あるといい。浅煎りのコーヒー豆で淹れたエスプレッソに、多すぎるくらいのミルクを加えたカフェラテが飲める店だ。そして、天然酵母で作ったパンを売る店。あとは美味しい食事を提供してくれる店。

 いずれも独特の雰囲気を持つ内装で、自宅のインテリアのヒントを得ることができれば嬉しい。いくつかの店舗のオーナーとは友達で、「これはどこで買った器ですか?」などと気軽に尋ねることができると楽しい。こうしたお店が徒歩圏内に20店舗くらいあれば十分である。いずれも行列ができてもらっては困るので、メディアで紹介されることに懐疑的な店主たちでいてほしい。

友人や来訪者とゆっくり話ができるカフェ
Image by Pixabay from Engin Akyurt

 

現在の暮らし方

 随分と自分勝手な要望を並べたが、以上のような基準で住む場所を選んでいるというのが実際のところだ。長く生活の場にしている兵庫県芦屋市は、電車で東に30分移動すると大阪の梅田駅、西に30分移動すると神戸の三宮駅にたどり着く。北に六甲山があり、南に大阪湾が広がる。近所にカフェやパン屋もある。

 必要な情報はインターネット経由で手に入れる。発信したい情報があればYouTubeで配信する。打ち合わせや取材や講演会もほとんどオンラインにさせてもらっている。だからこそ、新型コロナウイルスの感染拡大以後、自宅の作業スペースをどんどん充実させている。ウェブカメラやマイクやスピーカーの性能をできる限り向上させ、オンライン会議の背景となる壁の色や本棚のデザインについての検討を繰り返した。手元に置いておきたい紙の資料を一カ所にまとめた書庫の設計も始めた。

 この1年間は、身の回りの環境を次の時代に向けて整え続けてきた。来年もそんな1年になりそうだ。それは「もう満員電車には乗らないぞ」「打ち合わせのためだけに出社なんてしないぞ」「高額なランチを食べるために並ばないぞ」という意思表示でもある。新型コロナウイルスの感染拡大は、なんとなく感じていた「生き方に対する自分の意思」をはっきりと浮かび上がらせてくれるきっかけとなった。

芦屋の風景

 

20年後の暮らし方

 次の20年で、自動運転技術は飛躍的に進歩するだろう。この技術はまず自動車に搭載され、いずれは住宅の個室に搭載されるのではないか。ベッドとクローゼットと机のある小さな個室が目的地に向かって移動するのだ。「帰宅する」という言葉が意味するところは、移動型の個室が生活拠点であるリビングなどと接続されることを指すようになるだろう。

 運転席に人間が座っていなくても公道を走ることができる時代がきたら、「自宅」というのは各部屋が集まって停車する場所になるはずだ。中核にはリビング、ダイニング、キッチン、バスルームなどが配置されている。その外側に各人の部屋が接続されているが、出かけるときは部屋ごと移動する。「明日の朝には博多にいたいな」ということになれば、夜のうちに目的地を設定しておく。翌日、目を覚ませばそこが博多である。

 以上のような未来を想像すると、生活の拠点は部屋が集合できるくらいの広さを持つ土地と、インターネットに接続できる場所であることが求められる。できれば窓の外側には豊かな自然が広がり、少々大きな音で音楽を聴いていても近所に迷惑をかけないほどの広さがあって欲しい。

 逆に言えば、それ以外の要素は相対的に価値が低くなる。そんな未来に、過密で固定費の高い都心部に住み続けたいと思えるかどうか。冒頭に述べたとおり、少なくとも私は都心部で幸せに生活するような未来像が描けないのである。

 そんな未来から現在を眺めるとき、私は「トカイナカ構想」に大きな可能性を感じるのだ。

コミュニティデザイナー山崎 亮氏
写真提供:studio-L

 

山崎 亮(やまざき・りょう)

コミュニティデザイナー。社会福祉士。1973年生まれ、愛知県出身。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。著書に『コミュニティデザインの源流』(太田出版)、『縮充する日本』(PHP新書)、『ケアするまちのデザイン』(医学書院)など。
http://www.studio-l.org/ 

山崎 亮(やまざき・りょう)氏


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