埼玉トカイナカ構想宣言~「静かな革命」の途上で

トカイナカコンソーシアム代表 神山典士

 コロナ禍での新年となりました。如何お過ごしでしょうか?トカイナカコンソーシアム代表、ノンフィクション作家の神山典士です。私は昨年朝日新聞&Mで「withコロナのニューノーマル白書」という連載を行い、各界のリーダーに話を聞きながら、自分自身の現状やこの国の将来を考えました。

 言うまでもなくこの国は、コロナ前から人口減少経済衰退高齢化地方の疲弊という課題満載列島でした。その中での「新型コロナ感染拡大」は世界唯一の事例であり、「全国民外出自粛」は戦後70数年間ついぞできなかった壮大な社会実験の場ともなりました。

 取材の中で、現在の日本の状況を「静かな革命が進行中」と語る人に出会いました。かつて20年前に「定年後の故郷回帰のシステムをつくろう」と、「ふるさと回帰支援センター」を立ち上げた高橋公氏です。生まれた当初、同センターは東新橋のワンルームマンションでした。ところがいまや有楽町交通会館の2フロア(家賃年間1億4000万円!)。この10年間で相談者はずっと右方あがりでしたが、コロナを機に前年比3倍に! その状況を指して氏は「静かな革命が進行中」と語るのです。

 振り返れば明治維新以降、この国はずっと「上り列車に乗った夢探し」の国でした。人も金も物も情報も全て一度東京に集めてから地方にばらまく。東京に行かないと幸せになれない国づくりだったのです。

「うさぎおいし~」で始まる文部省唱歌の「ふるさと」をご存じだと思います。あの歌は明治の終わり、長野県の寒村に育ち、長野県師範学校に学んだ高野辰之によってつくられます。そのとき辰之は東京音楽学校教授。本来なら長野県師範学校出身者は長野県内で教職に就かなければならなかったのに、出世を欲した彼はそれを破って上京したために「志を果たさなければ帰れない」状況にあり、「志を果たして、いつの日に帰らん」という3番の歌詞が生まれたのです。東京に行かなければ出世も仕事も幸せも身につかないという社会システムは、このころから生まれていました。

 ところがこのコロナで人々の意識は逆転しました。就職活動をする大学生の情報を統括するマイナビの情報部長がこう教えてくれました。「今年の就活生(大学3年生)にアンケートをとったところ、選べるならどこで働きたいかという3択で1位は地方47%、2位は東京以外の都市33%、東京は3位で20%。かつての東京志向は完全に逆転しました」。

 また栃木県の女子校の教頭先生の言葉も聞こえてきました。「高校生の就職希望は医学系薬剤師系がトップ。手に職をつけてふるさとで働きたい子ばかり。東京に行きたいなんて誰もいいません」。つまり若者たちも「下り列車」に乗ろうとしている。コロナ以降東京都の人口がずっと減少しているのは周知の通りです。(ピークは5月の14002973人、12月は139622725人)

 この状況下で故郷埼玉を考えた時、「トカイナカ構想(都心からおおよそ1.5時間圏内)」が生まれてきました。

 人々の意識が都会志向から脱都会志向へと反転したとたん、埼玉県民の目の前に広がるのは「地価も家賃も安く自然も豊かで教育スポーツ医療介護も充実」している「埼玉トカイナカ」です。狭い家でかりかりしていた妻や子も笑顔を取り戻し、嫌だった終業後の付き合い酒もなくなり気がつけばお腹周りもすっきり!もちろん満員電車での通勤なんて金輪際ごめん!いまやトレンドとなった「トカイナカ生活」は、人生を豊かにしてくれます。

 このエリア周辺の自治体、企業、文化教育、医療介護、スポーツ団体等を横串に指し、地域メディア(雑誌とweb)を創刊して、圏内、県内、全国、全世界に向けてその魅力を情報発信する。新たに若者を呼び寄せる企画を立ち上げ、空き家や空き店舗を地域資源に「反転」させてエリアに活力を呼び起こす。子どもたちのチャレンジとやる気を引き出して従来の学校教育には欠如していた「生き抜く力」を鍛え上げる。ポテンシャルのあるシニア世代の力を発掘集約して、「人生100年時代」のロールモデルとなる生き方を模索する。

 地域の魅力化と自立なくしてこの国の未来はない。コロナを「いなし」つつ、地域の文化と経済が自立していくこと。私たちは「下り列車」に乗ったこの取り組みから「次代の夢」を生み出したいと思います。

 埼玉トカイナカプロジェクト。ここにその誕生を宣言し、この動きが全国各地に広まっていくことを祈念いたします。

朝日デジタル&M - ニューノーマル白書

埼玉トカイナカプロジェクト

■賛同者
細川護煕/川合善明(川越市市長)/渡辺一美(ときがわ町町長)/杉島理一郎(入間市市長)/斉藤芳久(鶴ヶ島市市長)/森田光一(東松山市市長)/飯島和夫(川島町町長)/吉田昇(滑川町町長)/富岡清(熊谷市市長)/高橋公(認定NPOふるさと回帰支援センター理事長)/藤縄善朗(元鶴ヶ島市長)/関口定男(前ときがわ町町長)/萩原秀雄(元日本バレーボール協会専務理事、埼玉アザレア創設者)/西上ありさ(コミュニティデザイナー、スタジオL創業メンバー)/笠原喜雄(アースシグナル代表取締役社長)/伊藤利一(リーフ株式会社代表取締役社長)

※引き続き近隣自治体首長、企業団体の代表等に賛同をお願いしています。

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