特集:入間市のご当地映画『ラストサマーウォーズ』誕生物語

埼玉トカイナカ 神山典士

埼玉県入間市の〝ご当地映画〟が生まれた。同市出身の監督作品。出演者にもゆかりの俳優が加わり、名産「狭山茶」の広い茶畑や、文化財である大正期建立の西洋館などがロケ地となった。市長も発案者の一人となったその作品『ラストサマーウォーズ』にはどんな「裏ストーリー」が隠されているのか? またそこから始まる町づくりとは? 映画の表と裏のストーリーが見事にシンクロした!

文=神山典士 写真=©「ラストサマーウォーズ」製作委員会

少年の「ほとばしり」。そこから始まる物語

 その映画は、12歳の少年の「ほとばしり」から始まる。

「ぼくの映画のヒロインになってください」

 ある日の放課後、日ごろから憧れているクラスメート、明日香ちゃんにそう言ってしまったのは主人公の陽太。普段は友達も少なく、アイフォーンで動画を見ることが大好きなおとなしい少年だ。

 でも思わず、その言葉が「ほとばしって」しまったのには訳がある。その日は1学期最後の日。担任の先生は言った。

「小学校最後の夏休みなんだから、やり残したことがないか。後悔しないようにね~」

 さらに明日香ちゃんは、2学期には両親の都合で急遽、引っ越してしまうという。今言わなかったら永遠に明日香ちゃんの映画は撮れない。思い詰めた果ての「告白」だったのだ。

 そして返事は、「いいわよ」。髪の長い明日香ちゃんのとびきりの笑顔が返ってきた。ええっーー! その言葉にたじろぐ陽太。なぜなら、そう言っておきながら企画もアイデアも決まっていないし、映画の撮り方も知らなかったから。スタッフもいない。お金もない。機材もない。いったいどうすればいいんだ!!

「あのねぇ、何で映画を選んじゃったかなぁ」

 悩める陽太の前に現れたのは、「後悔しないように」と語った担任の先生だった。大学時代に映画研究会に所属していた先生は、黒板に映画のつくり方を書きながら、こう教えてくれた。

「映画は時間も手間もお金もかかる。しかも正解がない。映画づくりは海賊船と一緒。いかにいいクルーが集められるかよ。必要なスタッフはxxとxxとxx。これだけは最低必要ね。私が教えられるのはここまで。あとは自分で何とかしてね、監督~よろしくね~」

 茶畑が広がる町に取り残された陽太の運命やいかに──。と、ここから波瀾万丈の映画づくりの過程を描いた「青春ロードムービー」が始まるんだけど、ちょっと待て。このストーリーって、どこかで聞いたことないか?

「ぼくの映画のヒロインになってください」。その一言から、小学校最後の夏休みの大冒険が始まる!

メディアの世界で10年。好きな作品を撮りたかった

「私自身の少女時代は夢がなくて、親が言うままの人生になるのが嫌で、高校を出て5年間留学して英語を勉強したり、日系の雑誌社で働いたりしてきました」

 そう語るのは、今回の映画のプロデューサーとして、雑用から資金管理まで全てを取り仕切る金丸千尋さんだ。その半生は、夢を求めてもがく陽太たちにそっくりだ。

「帰国してからは制作会社に入ってテレビのADをやったり、イベントやCM制作などをやっていました。でも本格的な映画が撮りたくて、文化庁の助成金を使って映画製作ができないかと考えていた時に、旧知の杉島(理一郎)さんが入間市の新市長になったので、彼と一緒に入間市を盛り上げる何かを企画したいと思ったのです」

 彼女とZoomで会議をすると、画面が激しく動く。電車の駅で移動しながら会議に参加しているからだ。映画づくりはそれほど忙しい。この1年間はゆっくりベッドで寝ていない。でも楽しい。充実感がある。だって初めて手がける映画なんだから。

 つまり、映画を撮りたいという陽太の「ほとばしり」は、実は金丸プロデューサーのほとばしりでもあった。「撮り方がわからない、金がない、スタッフも不足、手間もかかる」というのは、陽太と金丸さんに共通する映画づくりの「普遍の課題」なのだ。

 陽太は負けなかった。先生に「海賊船の作り方」を教えてもらったあと、果敢に仲間集めにとりかかった。だから金丸さんも負けてはいられない。入間市に出向いて杉島市長に直談判した。その熱意に、幸運の女神は少しほほ笑んでくれたようだ。杉島市長がこう振り返る。

「金丸さんに相談されたのとほぼ同じタイミングで、シンガーのはたさんとの出会いがあったのです」

 入間市生まれのシンガーソングライター・はたゆりこさんは、2021年から入間市観光協会の理事を務めることになった。その縁で市長と出会い、「子どもたちのために何かやりませんか?」と提案した。そこにはこんな思いがあったとはたさんは言う。

「20年からコロナで閉鎖的な社会になってしまって、子どもの自殺も増えていました。東京五輪が開かれて、大人たちは浮かれていたけれど、子どもたちは矛盾を感じて不満があったはず。そんな子どもたちへの応援歌ができないか。その思いを市長にぶつけたんです」

子どもたちが輝く町づくり。映画に重ねた市長の思い

 杉島市長の政策の一つには「子どもが輝く町づくり」がある。

 コロナ禍で学校はリモート授業になり、運動会や修学旅行は中止や延期になった。楽しいはずの給食も黙食だ。そんな時でも子どもたちに勇気を持ってもらいたい。大きな夢を持って、チャレンジしてほしい。町は、大人たちは、そのためなら何でもやろう──。その決意には杉島市長自らの思いも込められている。こう語る。

「私には高校生を筆頭に2歳児まで4人の子どもがいるのですが、子どもたちはあまり大きな夢を持たなくなったようです。長男は留学したいと言いますが、下の子たちは入間市を出たいとか、何かに挑戦したいとかあまり言いません。入間市を愛してくれるのはいいことですが、大人しすぎるのも問題だなと思っていました」

 昔の子どもたちは誰もが都会に憧れた。ディズニーランドや原宿で遊びたい。そんな素朴な思いがあった。でもそれは、毎日見るテレビにおしゃれな都会が映っていたからだ。今の子どもたちはテレビは見ずにYouTubeに夢中だ。そこに都会は登場しない。むしろ自然を楽しむキャンプや趣味の料理、ファッション、ゲームの世界が展開される。入間市を出なくても手にできる「幸せ」がそこにはある。

「それはそれでわかるんですが」と、杉島市長は言う。

「でもデジタルな時代だからこそ、子どもたちに夢を大きく持ってほしい。夢は無限だ。それにチャレンジしてほしい。そういう夢が香る町にしたいねと(金丸さん、はたさんの)3人で話し合いました」

 そこに入間市出身の宮岡太郎監督も加わった時、「映画」という「夢」が現実として立ち上がった。映画の中にこんなセリフがある。「映画は難しいよ。お金もかかるし手間もかかる」。それはそのまま4人の悩みでもあった。

「でも、宮岡監督が脚本のアイデアを持ってきた時に『これだ!』と全員で盛り上がったんです。脚本に描かれていたのは、少年少女が夢に向かってもがく姿でした。その壁を突き破る情熱を、この映画を通して子どもたちに伝えられたら……。4人でそう感じて、そこから市民を巻き込んでの映画づくりが始まりました」

西武鉄道も巻き込んだキャンペーンを

 今回、その「夢の物語」に西武鉄道が参加した。大正年間から埼玉県西部と東京・池袋を結び、地域の大動脈となってきた西武鉄道。

特急ラビューに乗って入間市でラストサマーウォーズ! 写真=西武鉄道

 コロナ禍で鉄道会社も大打撃を受けた。定期券を使う乗客の激減。沿線自治体の人口減。今までのように「池袋に何分」という「上り列車目線」のマーケティングでは将来が見えてこない。運行担当者はこう語る。

「これからは鉄道会社も地域の魅力づくりに、来訪されるお客さま目線で臨まないといけないと思っています。そこにこの映画の話をいただきました。入間市駅は特急ラビューが停まる数少ない駅の一つです。地域を盛り上げることは西武鉄道のお客さまを増やすことでもありますから、できる限り協力したいと考えました」(西武鉄道スマイル&スマイル室・担当者)

 西武鉄道は、乗客利用客の安心安全を確保した上で、「駅をメディアにしたい」という思いもある。そこから入間市の企画部や新設の未来共創推進室と、西武鉄道広報部、運輸部との話がまとまった。西武鉄道全92駅の半数の駅に「ラストサマーウォーズx西武鉄道x入間市」のパンフレットが設置されることになったのだ。

 この映画は入間市のファン(関係人口)づくりの絶好の機会。パンフにはロケ地入間市の魅力、特産の食材(入間ゴボウ、入間地豚、里芋、お茶の新芽、彩の夢味牛、卵……)を使った「入間グルメ弁当」「サラダ」「スイーツ」「うどん」などが取り上げられる。料理監修は、本サイトで埼玉の特産レシピを連載している料理研究家の川上文代さん。調理の協力には、駅前の人気店、「ろばた焼 長州」が名乗りを上げてくれた。市内の幾つかの料理屋レストランカフェも、キャンペーンに賛同して「入間市のグルメ」レシピを提供してくれることになった。

 若者たちの夢が映画に結実し、ストーリーでは子どもたちが大活躍する。製作資金はクラウドファンディングで集められ、製作委員会には市内の大口出資者が集まった。撮影には市民も参加し、市民応援隊も組織された。映画を応援しながら地元企業も自治体も活気づく。入間市を舞台に、見事な「win-win-win」の関係が生まれようとしている。

「(町づくりに)やり残したことはないか、後悔しないようにね」と、市民一人一人が自分に問いかけなければならない時代。その大きなチャレンジが、今始まった。

入間グルメ弁当
■入間の味わいメニュー協力店

映画の上映期間中、チケット半券お持ちいただくと、入間の味わいメニューをお召し上がりいただけます。

  • 食と酒かどや 入間市東町2-1-21
  • 厨房酒場ひとまる 入間市下藤沢1-15-16
  • 料亭 魚いち 入間市豊岡1-8-5
  • 蕎麦カフェひまRIN 入間市新久604-8
  • ホルモン焼道場 味与 入間市豊岡1-3-29
  • 牛骨ラーメン 麺房 徳山 入間市豊岡1-3-29
  • ろばた焼 長州 入間市豊岡1-5-39

「ラストサマーウォーズ」出演者コメント

担任の先生役/井上小百合

埼玉県本庄市出身、舞台を中心に活動中

 役者を目指して始動したのは中学生の時で、東京に出て行ったのは16歳。つらいこともたくさん経験したけれど、「夢」がいつも私の中にはあって、生きる糧になっていました。この脚本を読んだ時、そんな自分とリンクしていて……純粋にたくさんの人に届けたい映画だなと思いました。

主人公の兄役/長妻怜央(7ORDER)

2021年にファーストアルバム『ONE』リリース

 一つのことに熱中できることほど幸せなことはない。普段の活動でも、仲間や、周りにいてくれるたくさんの人々に助けてもらっているから、今の仕事や活動がしっかりできているんだと、この作品に触れて改めて感じました。夢を追いかける少年のお手伝いができることを本当に楽しみにしています。

主人公の父親役/デビット伊東

1966年、入間市出身。B-21SPECIALを結成。

 自転車でひたすら走り、川があったら飛び込んで、手づかみで魚を捕まえて、つかんだ魚が、「ナマズだ~」「すげ~」「地震が起きるから気をつけろ~」。ナマズを見ながら笑う。夢や希望は毎日生まれる。ぼくが子どもの頃に描いた夢は、いま大きく育っています。

主人公の母親役/櫻井淳子

埼玉県鶴ヶ島市出身、「ショムニ」「特命係長只野仁」などに出演。

 小学校最後の夏休み。試行錯誤しながら夢に向かって突き進むギャングエイジの子どもたち……。忘れかけていた、何事にもチャレンジしていく気持ち。夢や希望の大切さを思い出させてくれる作品に参加できることを楽しみにしています。

埼玉県入間市発の青春ジュブナイル映画!!「ラストサマーウォーズ」

出演:阿久津慶人、飯尾夢奏、羽鳥心彩、松浦理仁、小山春朋、上田帆乃佳、井上小百合、長妻怜央(7ORDER)/デビット伊東、櫻井淳子
監督・企画・編集:宮岡太郎
脚本:奥山雄太
主題歌:はたゆりこ「ラストサマーフィルム」

「ラストサマーウォーズ」
https://lastsummerwars.com/

6月24日よりユナイテッド・シネマ入間にて先行公開。7月1日より新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開

@「ラストサマーウォーズ」製作委員会

執筆者プロフィール
神山典士(こうやま・のりお)

ノンフィクション作家、埼玉トカイナカ構想代表。1960年生まれ、埼玉県出身。入間市立豊岡小・豊岡中、埼玉県立川越高校卒業。ときがわ町トカイナカハウスでの生活を満喫中。美味しいうどんや野菜、懐かしき昭和テイストの温泉、移住者たちとの交流、あとは地元の皆さんとの交流を画策しています。著書に『成功する里山ビジネス ダウンシフトという選択』(角川新書)など多数。新刊『トカイナカに生きる 』(文春新書)が好評発売中。

http://norio-kohyama.com/
講演依頼ナビDX


神山典士note


投稿順