特集:「自分の町」から日本を豊かにする! 初代地方創生担当相・石破茂講演会「地方創生を国民運動に!」

埼玉トカイナカ 成見智子

埼玉トカイナカコンソーシアムは2022年3月12日、比企郡ときがわ町に衆議院議員の石破茂氏を招き、講演会を開催した。14年から2年間、安倍晋三内閣で初代の地方創生担当大臣を務めた石破氏。「失敗したら国が潰れる」という覚悟で進めた政策に、どんな志をこめたのか。続くパネルディスカッション、懇談会までを通して語った「日本列島創生論」をひも解く。

文=成見智子(ジャーナリスト)、写真=北村 崇

石破 茂氏 衆議院議員。鳥取県出身。慶應義塾大学法学部卒。1986年、衆議院議員に初当選。防衛大臣、農林水産大臣、初代地方創生担当大臣などを歴任

「テレビで見るよりは怖くないと言われています、衆議院議員の石破茂でございます」

 第一声がホールに響くと、満場の拍手と笑いが沸き起こった。3月12日、ときがわ町文化センターのアスピアホール。「地方創生を国民運動に!」をテーマに、石破氏は語り始めた。

 日本は今、有事である。最も大きな問題は「恐ろしい勢いで人口が減っていること」。そう話す表情が、引き締まっていく。

「日本の人口は今、1億2500万人ですが、このままだと2100年には5300万人まで減るという予測がある。80年以内に半分以下になるんです。私の地元の鳥取県の人口は55万人弱ですが、この県一つが1年で消えてなくなるペースです」

 日本で今、何が起きているか。モノが売れなくなった。もっと良いものが欲しい、という願望も薄れている。市場原理が働かず、金利はほとんどゼロに。岸田文雄内閣が掲げる「新しい資本主義」が形骸化しつつあるということだ。にもかかわらず、21年10月の総選挙で人口減少に言及した党はほぼ皆無。またも問題が先送りされることに、石破氏は警鐘を鳴らす。

「人口が減ることが前提では、新しい国を論ずることはできません」

今だけ、ここだけ、あなただけ

 子どもの頃、山陰地方を「裏日本」と呼ぶNHKニュースに憤慨していたという。東京一極集中。これが問題の根源だと石破氏は明言する。富国強兵・殖産興業に舵を切った明治以来、日本では地方が人材・食料・エネルギーを提供し、大都市がそれを消費するという構造になっているからだ。

「しかし東京は婚姻率が最も高い一方、合計特殊出生率(一人の女性が生む子どもの数)は全国最下位です。そこに人が集中すれば、人口が減るのは当然なんです」

 疲弊した地方が息を吹き返すための基盤作りとして石破氏が唱えてきたのは「産・官・学・金・労・言」という言葉だ。

「地元の産業界、役所、学校、金融機関、労働組合、メディア。住民が集まってみんなで考え、こうすれば町は良くなるというプランを作るんです。私は今日ここに立つ前、ときがわ町には何がありますかと地元の人に聞きました。『有機大豆で作った豆腐だ』『自販機で温泉水を買える所がある』『慈光寺の桜と紅葉が一番。国宝もある』など、いろんな声がありました。霞が関や永田町にはわからない、この町の人しか知らない魅力です。だから自分の町のことは、自分たちで考えなくてはならない。それに対して国は支援をします」

 国の支援は、情報、資金、人材の三つ。石破氏の肝いりで普及が進められたのは、地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」だ。産業構造や人口動態などのビッグデータを集約、可視化したシステムで、産業・人口・インフラ等に関する地域別情報をインターネットで検索できる。

「ヒト・モノ・カネが、どこから入ってきてどこへ出ていくのか。客観的データをもとに地域住民が自分たちで分析すれば、現状を招いた原因もわかるでしょう。机上の空論ではない、現実的なプラン作りに役立ててください」

石破氏の話に聴き入る参加者。メモを取る人も

 情報は、誰でも平等に得られる。だが資金と人材の支援は、これまでのように一律ではない。「地方創生推進交付金」は、先駆性のある取り組みであると認められた場合に交付される。「地方創生人材支援制度」は、地方創生に積極的に取り組む市町村に対し、意欲と能力のある国家公務員、大学研究者、民間専門人材が市町村長の補佐役として派遣される制度。主体的に努力した地域が、果実を手にするのだ。

 キーワードは、「今だけ、ここだけ、あなただけ」。それをどうやって全国に売るかが重要だと説く石破氏は、壇上でスマホを取り出し、「今はこれで、どこの町の宣伝ビデオも見られます」とほほ笑む。

「一番面白い」と評するのは、宮崎県小林市のPR動画。豊かな自然や文化、特産品などをフランス人男性が紹介する動画だが、全編フランス語、と思いきや、実は地元の「西諸(にしもろ)弁」だったというオチで話題だ。視聴数は300万回を超える。

「市立中学の生徒が中心になって制作したそうです。市長に聞いたら、『どうしたら自分の町が良くなるかという思いを持たずに都会に進学した子どもは、故郷に帰らない。自分の町がどんなに素晴らしいか、中学生のうちにきちんと勉強させたい』と。とても感心したのを覚えています」

 今ここにしかない最高のものを一人一人に届けるにはどうしたらいいか、国民がそれぞれの地域で真剣に考えるとともに、「政府はもう一度、地方創生を国の政策の心に据えるべきです」と石破氏は強調し、講演を締めくくった。

「最高のものは東京だけじゃなく、むしろ地方に多くあるのではないか。自分たちが何をして、次世代にどんな幸せを残すのか、どんな日本を残すのか。そういう思いを共有しながら、新しい国を、地方から作っていきましょう」

自立の原動力は、民間の力

 続くパネルディスカッションには4人が登壇。「地域の自立」をテーマに石破氏と語り合った。山﨑寿樹氏は、埼玉県を中心に温泉施設や宿泊施設を経営する。

「温泉を媒体にして地域の衣食住文化を発信するというビジネスで、ここで人材育成もしています。稼げる仕事と場所を作ることが地域貢献だと考えています」

 松村豪太氏は3・11直後、宮城県石巻市で「ISHINOMAKI2.0」を結成した。

「元の町に戻すのではなく、バージョンアップしていきます。面白そうだと言って移住してくる人が増えました。刺激を受けて、新しい事業を始めた住民もいます」

 笠原喜雄氏は、毛呂山町や金融機関、地元企業の共同出資による地域商社に参画。21年、代表に就任した。

「近隣に大学が複数あって若い人は多いのですが、卒業後は町を離れてしまう。地元に魅力的な事業を生み出すため、21年からビジネスコンテストを開催しています」

 国家公務員として交通インフラや観光行政に携わる水嶋智氏は、今後の地方のあり方を俯瞰する。

「ウィズコロナ時代は、国内の交流人口の回復の他、観光業の高付加価値化も重要です。良いものはそれなりの値段で売り、雇用を確保する。住んでよし、訪れてよしというのが観光立国の本質ですね」

講演会に引き続いて開催されたパネルディスカッション

 新しい事業と雇用、そして新しい価値の創出に取り組む各人の話を聞き、「民間の力」への期待感を石破氏はこう述べた。

「お金を稼ぐ方法は、民間にしかわからないところがあって面白いですね。あとは、どうやってサステナブルなものにしていくかです。その事業によって地域にどれだけお金が入り、出ていくお金をどれだけ止めたかという評価をしていくといいなと思います」

 ディスカッションを終えた石破氏らはそのまま別会場に移動し、自治体首長、政治家、経営者、社会運動家、ジャーナリストなどがテーブルを囲む座談会に参加。官と民の関係性、民間の知恵や若い世代の意見を活かす仕組み作りなどについて、短い時間ながら多様な意見が交わされた。

 会場を出ると、「石破さんだ!」と歓声が上がり、たちまち町民に囲まれる石破氏。にっこり笑って写真撮影に応じると、大勢の人に見送られて車に乗り込んだ。

ときがわ町起業支援施設「ioffice」で行われた座談会

地方には資源が山ほどある

「ここは古いお寺とかきれいな渓谷があるそうだけど、案内がどこにもなくて、少しもったいないね」

 帰路の車窓に広がる田園風景を見渡し、石破氏はつぶやく。日本は地方のさまざまな資源を生かしきれていないと言う。

「温泉の話が今日出ましたが、日本は地熱資源量で世界第3位です。水も豊かで、小水力発電ができる場所も多い。国は農業を伸ばす政策を取らなかったけれど、日本は気候や土壌に恵まれています。付加価値の高い農産物を作って所得を増やすこともできる。食べ物とエネルギーは、地方に山ほどあるんです。その潜在力を最大限使おうという意識を持てば、地方が担う役割は相当変わるでしょう」

 地方には、まだ伸びしろがある。ポテンシャルがある。この日、壇上でも繰り返し訴えたことだ。

 地方と、そこに住む人たちが自信と誇りを取り戻し、政治がそれを後押しする。地方を豊かにすることで、国全体を豊かにする。これまでの日本とは真逆の、大きな流れができるまで旗を振り続けることが、政治家・石破茂の使命だ。

パネリスト紹介

山﨑寿樹氏
株式会社温泉道場代表取締役社長執行役員兼グループCEO
 
コンサルティング会社での経験を生かし、温浴施設・宿泊施設の運営受託・事業再生支援等を手がける。「昭和レトロな温泉銭湯 玉川温泉」など、店舗はFC を含め11 店舗。温泉を核とした地域活性化実現を目指す。

松村豪太氏
一般社団法人ISHINOMAKI2.0代表理事

石巻移住ガイド事業、「復興バー」の運営、クリエイティブなアイデアと知恵を持ち寄り、地域を外へ開く「STAND UP WEEK」開催など20 以上のプロジェクトを実行。総合芸術祭「Reborn-Art Festival」実行委員会事務局長を務める。

笠原喜雄氏
アースシグナル株式会社代表取締役/株式会社もろやま創成舎代表

太陽光発電、不動産、空き家活用、EVカーシェアリングなどを運営する会社として、もろやま創成舎に参画。地域の事業者と連携し、多様な分野への投資による事業創出を推進。若者を呼び込める地域づくりを目指す。

水嶋 智氏
国土交通省職員

1990年代は成田空港平行滑走路の整備、2006年からは観光庁設立、観光地域振興、民泊の法整備など観光行政を担当してきたほか、整備新幹線、リニア中央新幹線、JR北海道問題、地域鉄道など鉄道行政も担当。現在、鉄道建設・運輸施設整備支援機構副理事長。

執筆者プロフィール

成見智子(なるみ・ともこ)
ジャーナリスト。東京都出身。大学卒業後、旅行情報会社の編集・広報担当を経て独立。東南アジアの経済格差問題をテーマに取材活動を始め、2010年からは地域農業の現場取材をメインとする。日本各地の田畑や食品加工の現場を訪ね、産地や作物の紹介、6次産業化・地産地消の取り組みなどの現状をリポート。
成見智子


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