川越市は今年、「市制100周年」で盛り上がっている。市民団体等に公募した川越市市制100周年記念の企画の中で唯一、高校生を主体にした取り組みが「観光都市川越775万人物語・高校生プロジェクト」だ。今年末には一編の物語が生まれてくる。今回はその経過報告をお届けしよう。
【川越市市制施行100周年事業】 文=楠田理恵ほか
平成元(1989)年ごろ、川越市内への入り込み客数は年間100万人台だった。その後、NHK大河ドラマ『春日局』の放送、「蔵造りの町並み」整備、電線地中化などを通して観光地化が進んだ。コロナ禍前の2019年は775万人に。
その過程にはどんなドラマがあったのか。誰が、どこで、どんなふうに頑張ったのか? その物語を高校生たちが紐解き、紡いでいく。実は川越市内には18校もの高校がある。東京都の特別区を除けば、こんなに高校がある自治体は珍しい。この高校生パワーを結集したワークショップの取り組みは書籍化され、未来へと語り継がれる。
これまでのワークショップの歩み
川越市市制100周年企画~高校生プロジェクト【楠田理恵さん】
江戸時代、川越藩は今の埼玉県下で随一の城下町だった。明治維新の廃藩置県を経て、埼玉県が成立。大正11(1922)年に県で初めての「市」として川越市が誕生した。
市制100周年の大きな節目を迎えた今年、川越市では提案型補助事業が企画され、38件が採択された。その中に我々の「観光都市川越775万人物語・高校生プロジェクト」が入っている。プロジェクトの大きな特徴は、現役高校生が取材・執筆を担当する点。県立川越高校から6人、松山高校から1人、OB大学生2人が参加している。
また、川越高校OBが中心となって実行委員会を結成し、高校生をサポート。川越のキーパーソンとつなぐ重要な役割を果たしている。さらに、ノンフィクション作家の本橋信宏氏をはじめ、文筆家、元新聞記者などの専門家による取材・執筆指導も行われる予定だ。
これまでに9回のワークショップを開催。毎回、彩り豊かなゲストスピーカーに高校生たちは大いに刺激を受けている。以下、ゲストと語られたテーマについて順不同で紹介しよう。
創業200年を超える老舗和菓子屋「龜屋」の蔵の生活を聞くワークショップ
ゲストスピーカー
●荒牧澄多氏/川越市役所勤務を経て、NPO法人「川越蔵の会」理事
【テーマ:蔵造り】川越の希少性、開発の歴史、蔵の会発足の経緯、街並み保存の活動等
●山田禎久氏/川越氷川神社宮司
【テーマ:川越まつりについて】川越まつりの中止による喪失感、「まつり」の意味と意義等
●藤井美登利氏/NPO法人「川越きもの散歩」代表
【テーマ:川越のきもの文化を考える〜絹や木綿の記憶をさがして】産業革命と川越唐桟の関係、織物の衰退、織物市場の保存運動、文化財指定、埋もれた偉人速水堅曹、川越きものの日
●西村拓也氏/ゲストハウス「ちゃぶだい」共同代表
【テーマ:川越におけるちゃぶだいの役割】ゲストハウスとは、ちゃぶだい設立の経緯、古民家のリノベーション、「まちやど」とは、ちゃぶだいの持つ機能
●井上晶子氏/立教大学観光研究所特任研究員
【テーマ:アンケート結果に見る川越観光の現在とこれから】観光地の4つのステークホルダー、「らしさ」「らしさを失う」とは、内の目と外の目、観光地のアイデンティティ、サスティナブル・ツーリズム、食べ歩きについて、オーバーツーリズム
楠田理恵(くすだ・りえ)さん
1979年、埼玉県入間郡越生町生まれ。川越女子高校、明治大学卒業。キャリアコンサルタント。二児の母。自分が理想とする働き方を求め、2019年に一部上場企業を退職し、働き方改革を開始。21年、ときがわ町発、比企起業大学で起業について学び、独立。
このプロジェクトに参加して 川越高校2年 【黒田修平さん】
そもそも、僕が「観光都市川越775万人物語」のプロジェクトに参加したのは、川越の活気強さに感銘を受けたからでした。特産やランドマークが少ない街で生まれた僕にとって、川越の観光的な魅力や活気は初めて目にするものでした。県立川越高校に入学し、通学するようになって、ここは僕の第二の故郷のようになりました。だからこそ、川越のことを知って、その魅力を他の地域、県の方々とも共有したいと思いました。
実際に参加してからも、驚きとワクワクでいっぱいでした。川越で生まれて発展してきたと思っていたものが、日本の別の地域や海外からもたらされ、川越が発達させたものだと知った時は、川越のすごさのスケールが一気に大きくなりました。
いろいろな人に話を聞いて、双方向に対話をして得られた知識や経験は、きっと他のところでは手に入らなかったものだと思います。このプロジェクトに参加して良かったとつくづく思います。
また、川越についての知識だけではなく、インタビューの方法、プロジェクトの進め方にも、学べる部分がたくさんありました。プロジェクト指導者であり、作家でもある神山先生じきじきに教えてもらえる技術はとても貴重ですし、将来必ず役に立つものだとも思い、感謝しています。
このプロジェクトの最終的な目標は、僕たち高校生が主体となって川越に関する一冊の本を仕上げるということです。責任重大な仕事ですが、頑張りたいです。
黒田修平(くろだ・しゅうへい)さん
県立川越高等学校 2年生。
川越の過去〜未来の形をみんなで共有
大人サポーター 【一瀬 要さん】
プロジェクトの主役は高校生たち。サポーターたちがすごい熱意で川越の魅力を彼らに紹介します。高校生たちは想像したこともない話を真剣に聞きます。どう受け止めたらいいか戸惑っているはず。執筆のサポーターには著名なプロのライターが名を連ね、川越を知るワークショップには川越の実力者たちが協力し、とてもいい体制です。
高校生たちの行動力・観察力・取材力は未知数。取材が始まり気持ちが集中すれば力を発揮するでしょう。彼らは昔と違い、勉強も一所懸命、折り目正しく素直、爽やかだなぁ、と感じます。シニアに囲まれた彼らは質問がしにくいかと。彼らが話す機会をもっと増やしたいです。
主役はこれから未来を切り拓く高校生たち。自ら考え自ら行動、関心の的を見付け、取材でぐっと切り込み解明、それを文章で人に伝える、ぜひこれを完遂してほしい。過去の歴史の最先端が現在、その関係性を知った彼らが、現在を未来につなぎます。川越の過去・現在・未来の形をみんなで共有出来たら最高です。
明治期建立の小林家住宅の文庫蔵内を説明してくれる舘川さん
小林家住宅に残る防火頭巾を被ったプロジェクトメンバーの高校生・神山くん
一瀬 要(いちのせ・かなめ)さん
いいことクリエイション合同会社代表社員。NPO法人武蔵観研理事。生活文化をテーマに地域の生業をつなぐ社会的事業に取り組み、地域人の交易交流活動を行う。
■ご案内
このプロジェクトでは取材執筆する高校生を広く募集中。川越市内の高校に限りません。今後の勉強にも、社会人になっても有益な調査報道のノウハウを伝授します。問い合わせは神山典士(TEL: 080-3252-7449、email: mhd03414@nifty.com)まで。