特集:2022年NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に比企能員、比企禅尼登場

2022年正月、いよいよNHK大河ドラマに埼玉トカイナカエリア比企郡の雄が登場する。 そりゃ誰だ?歴史上何やった人だ?そんな声に答えよう。我がヒーローはこんな一族だ!

文=神山典士 イラスト=久保田ナオ

比企氏ドラマ化!それってだれ?

「いまこそ比企郡のアピールのとき。この期をのがしたら、もうチャンスはないと思っています」

 赤ら顔でそう語るのは、比企郡滑川町町長吉田昇氏だ。その興奮も無理はない。2020年1月8日、比企エリア(東松山市を含めた小川町、滑川町、嵐山町、ときがわ町、鳩山町、川島町、吉見町、東秩父村1市7町1村)の人々には大きな朗報がもたらされた。2022年のNHK大河ドラマが「鎌倉殿の13人」(脚本、三谷幸喜、主演、小栗旬、宮沢りえ、大泉洋ら)になったと発表されたのだ。

 時の鎌倉幕府の中枢となった13組武家の中には、郷土の名族比企氏も含まれる。これまで関係者が苦節30年、<なんとか大河ドラマに!>と渇望しさまざまなアクションを起こしてきた悲願が、ついに実現した瞬間だった。

 とはいえ比企郡に住んでいる方も、あるいは新たにこの地に転居してきた人はなおさらのこと、「比企氏って誰?歴史上何をした人なの?」と疑問を持つ人も多いはずだ。

 それもそのはず。比企氏は鎌倉幕府を開いた源頼朝には寵愛を受けたが、その没後は権力闘争に破れ、北条氏の策略にあって滅亡させられた。歴史は常に勝者のもの。鎌倉時代を描いた歴史書「吾妻鏡」は、勝者北条氏の視点が描かれている。

目に見える歴史がない!

 現在の比企郡内にも比企氏に関する目に見える遺跡は皆無で(あっても口伝伝承でかつてここにあったと言われるものばかり)、書物や資料も極少数に限られる。平家物語のように当時から物語を伝承する「琵琶法師=メディア」の存在があれば別だが、そうでなければ鎌倉時代から約800年、風化するのもやむを得ない。冷酷な時の流れの中で、比企氏の話題は人々の唇に昇ることもなかったのだ。

源氏を助けた一族

 だがその系図を見てほしい。戦国時代遠宗は,都で後の将軍源頼朝の父義朝の家来として働き、その妻比企尼は頼朝の乳母となった。平治の乱(1159年)で源氏が平家に敗れ頼朝が伊豆に流刑になると、その後約20年間に渡ってその世話を続けた。食料物資を送るだけでなく、成人して平家を打倒するまで、さまざまな戦略や智恵もさずけたと言われている。

 そのお蔭もあって頼朝は後に旗揚げして平家を倒し、鎌倉幕府を開くことができた(創設年には1180年~1221年まで諸説あり)。開幕後頼朝は比企氏を重用し、鎌倉の比企が谷に屋敷を構えさせた(現在は長興山妙本寺)。

比企能員

比企能員と鎌倉ゆかりの妙本寺

鎌倉殿の13人出演の武将たち。比企尼の姿も。

横須賀在住の切り絵師、福島肇さん、通称たろうちゃん作。

女性活躍の先進地

 それだけではない。系譜図に明らかなように、比企氏一族はだれでも知る歴史上の人物とその関係者を数多く排出している。例えば戦国時代のヒーロー源義経の妻で、平泉で一緒に果てた郷姫「比企尼の孫」。後に薩摩藩を創出し維新期まで約600年間の繁栄を誇る島津家の始祖忠久(比企尼の長女の子)。二代将軍頼家の妻・若狭の局「能員の子」などなど。この例でわかるように、一族は比企尼を筆頭にその3人の娘や孫までも含めてかなりの女性上位。さしずめ女性の社会進出先進地であり、「ダサイタマ」ではなく「イケメンイケジョの地」であったのだ。

 だが後ろ楯となった頼朝亡きあと(1199年)権力争いから、一族は北条氏の謀略にはまってしまう。時が戦国時代であれとは思えないほどのお人好しぶりなのだ。

 1203年、世には「比企の乱」と呼ばれるが、その実は「薬師如来の法要がある」と北条氏に言われて平服のままで北条邸にでかけた能員を軍勢が襲うという、卑劣極まりない手口で彼は殺害されてしまう。その後比企邸にも軍勢が押しかけ一族は壊滅させられた。

全国に広がる足跡

 とはいえ全国に視界を広げれば、その存在はいまに伝わっている。生き延びた島津忠久の母丹後の局(比企尼の長女)は九州で神格化され、現在では安産の神として多くの神社に祭られている(鹿児島市内に花尾神社等、鹿児島県いちき串木野市内に厳島神社等、福岡県うきは市内に岩屋観音堂等)。

 比企一族歴史研究会主宰の西村裕氏によれば、その他にも「比企氏の伝説伝承は全国各地に語り継がれている」。例えば大阪市住吉区は「島津忠久生誕の地」。神奈川県函南町には「比企氏の館伝承地」。横浜市戸塚区にも丹後山神明寺に「丹後の内侍伝説」等、その信仰は各地で健在だ。むしろ地元比企郡のほうが、故郷の英雄を忘れすぎてはいまいか。悲しいかな、灯台下暗しとはこのことかーーー。

いまこそ出陣の時!

 さて2021年正月スタートの「鎌倉殿~」では、稀代のエンタテイナー三谷幸喜の筆によって比企氏はどう描かれるのか?能員は個性派佐藤二朗が演じる。さらに歴史資料には登場しないその妻道を劇団四季出身の演技派堀口敬子が。比企尼には名優草笛光子。いずれもひと波乱ある物語が期待できるキャスティングだ。

比企能員(ひきよしかず)役・佐藤二朗さん
「13人」の一人。北条と火花散る権力闘争

比企尼(ひきのあま)役・草笛光子さん
源頼朝を支える乳母
「源氏を支えるのが比企の役目。ここは務めを果たしましょう」

道(みち)役・堀内敬子さん
比企能員(ひきよしかず)のしたたかな妻
「なりませぬ、すべては比企のためにございます」

「鎌倉殿の13人」写真提供:NHK

 比企郡9市町村では20年11月に「推進協議会」をつくり、会長には吉田氏が着任。ドラマ放送と同時に、さまざまな比企郡活性化のアクションを起こすことにした。もちろんこのドラマが現在の比企郡の活性化にも繋がるか否かは物語の展開だけでなく、私たち市民の活動にかかっていることはいうまでもない!!郷土の先達、元嵐山町長関根茂章氏はこんな言葉を残している。

「真の郷土振興、地域おこしは先人たちの遺風業績を新たに掘り起こすことから始まる。過去を継承せずして健全な未来の創造はありえない」

 現在この地に生きる私たちは、故郷の先達の偉業を知り顕彰し、そこにプライドを持とう。そして全国に現在の比企郡エリアの魅力を発信し、ファンを増やし関係人口を呼び込もう!

 千載一隅のチャンス! いまこそ「比企人出陣の時」だ!!

切り絵師プロフィール

福島 肇(たろうちゃん)

神奈川県横須賀市出身。切り絵の美しさに魅了され独学で製作をはじめる。主に、フルカラーの作品で風景、生き物、シリーズものを手がける。主な作品:SOMETIME IN KAMAKURA CITY、鴨居須賀神社例大祭、マザーグースの世界、種田山頭火の世界

福島 肇
執筆者プロフィール

神山典士(こうやま・のりお)

ノンフィクション作家、埼玉トカイナカ構想代表。1960年生まれ、埼玉県出身。入間市立豊岡小・豊岡中、埼玉県立川越高校卒業。ときがわ町トカイナカハウスでの生活を満喫中。美味しいうどんや野菜、懐かしき昭和テイストの温泉、移住者たちとの交流、あとは地元の皆さんとの交流を画策しています。著書に『成功する里山ビジネス ダウンシフトという選択』(角川新書)など多数。また、今秋に『トカイナカ暮らしの流儀』(仮題)を上梓予定。

http://norio-kohyama.com/

神山典士
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