1200人のシェフが愛用
さいたまヨーロッパ野菜研究会

くらし さいたまヨーロッパ野菜研究会 成見智子

さいたまヨーロッパ野菜研究会
写真提供:ヨロ研事務局

 これまでヨーロッパから空輸するしかなかった本場の野菜が、地元埼玉で手に入るようになった。

 生産だけでなく流通・販売・普及まで視野に入れ、地域が一丸となって産地形成してきたさいたまヨーロッパ野菜研究会、通称「ヨロ研」。13人の若手農家が生産した年間約70品目のヨーロッパ野菜を、飲食店などに出荷している。取引先は全国で1200軒以上あり、うち埼玉県内への出荷は約1000軒。地産地消の成功例として、他地域からも視察が絶えないが、「そう簡単には真似できない」と関係者は口をそろえる。その取り組みの、何が新しいのか。成功の原動力となっているものは何か。3回にわたってレポートする。

写真・文=成見智子(ジャーナリスト)

第2回 朝とれた野菜がランチのテーブルに並ぶ“食の街”埼玉 ~生産農家・関根一雄さん、レストランシェフ・阿部正和さん

単品目大量栽培から、多品目少量栽培へ

「それ、面白いでしょう? ミニパプリカなんですけど、普通のと違って上向きに実がつくんです。こっちはコールラビ。形がかわいいですよね。食べ方がわからないっていう人も多いですが、細かくスライスしてサラダにしてもおいしいですよ。ブロッコリーの茎みたいな味がします」

 さいたま市岩槻区の自宅に隣接した畑を案内してくれたのは、関根一雄さん。春夏野菜が終わり、秋冬野菜の収穫にはまだ早い端境期にもかかわらず、畑は緑でいっぱい。緑、赤、オレンジ、黄、紫、白、黒。「朝収穫しました」と言って関根さんが見せてくれた箱には、彩り豊かな野菜が20種近く、ぎっしりと詰まっていた。

「早めに作ったり、逆にちょっと時期をずらして作ったりもしているから、栽培品目は多いですね。種苗会社の種の他にも、ネットで取り寄せた輸入ものの種も使って試作しています。同じ種類の野菜でも色違いを作ったりするから、年間何品種作っているのか、自分でも把握できてないです (笑)」

朝収穫の野菜を詰めた箱を持つ関根一雄さん
朝収穫の野菜を詰めた箱を持つ関根一雄さん


 農家メンバーの中には、栽培品目をある程度絞り、大口の取引先にまとまった量を出荷する農家もいれば、関根さんのように、レストラン向けをメインに少量多品目を栽培する農家もいる。

 関根さんは両親とともにほうれん草や枝豆を大量に栽培し、市場に出荷していたが、ヨロ研の副会長・小澤祥記(第1回参照)さんに誘われ、ヨロ研発足の翌年にメンバーとなった。就農前は農機具メーカーの営業職をしていたこともあり、ヨロ研の新しい取り組みに、可能性を感じたという。

「市場取引だと、農作物の値段は相場で決まります。苦労して作った野菜がタダ同然の値段でしか売れない時もあって、残念な思いをしていました。もちろん、ヨロ研で作るのは珍しい野菜ばかりだから、難しいだろうなと思っていました。でも、メンバーに誘われた時は、関東食糧さんが仲卸に入ることが決まっていたので、これは売りやすいなと思ったんです」

「作れば売れる」という手応え

「好きなようにやってみろ」と背中を押してくれた父の畑の一画で、ゴルゴ(渦巻きビーツ)、スティッキオ(フローレンスフェンネルをスティック状に改良した野菜)、ズッキーニなどの栽培から始めた。ヨーロッパ野菜の中では比較的作りやすい品目で、他のメンバーに教わりながら育てたこともあり、生育は順調だった。

 そこで次は、ロマネスコ(カリフラワーの一種)やカリフローレ(カリフラワーをスティック状に改良した新野菜)などにも挑戦。ところが定植した直後からシンクイムシが大量発生した。手の施しようがないほどの被害となった。だが、それは早期に解決したという。

「メンバーを全員呼んで、畑を見せたんです。そしたら、定植前の苗の消毒の仕方を変えたらうまくいったよ、と教えてくれて。さっそく次の定植の時にそのとおりにやったら、今度はきれいに育ってくれました」

 初期の頃は収穫量が少なく、売上がわずか2000円という日もあったが、徐々に栽培面積を増やし、葉物をメインに作るようになった関根さん。ただ、輸入野菜ゆえの苦労もあるという。

「日本のほうれん草の種は生育にばらつきが出ることが少ないので、収穫の時は、畝の端から端まで機械的にとっていけばいい。でもヨーロッパ野菜の場合、たとえば同じ葉物のスイスチャードなんかがそうですけど、出荷基準を満たす大きさになっているものを選んで収穫しなきゃいけないから、手間はかかりますね」

生育の状況をチェックする関根さん
コールラビの生育の状況をチェックする関根さん

 家業をそのまま継ぐだけなら、相場に左右されることはあっても安定した収量は見込める。それでも関根さんがヨーロッパ野菜に力を入れるのは、「やっていて楽しいから」だという。

「手探り状態でここまで来ましたけど、自分でやり方を考えて一から育てていく楽しさがありました。そしてなにより、『みんなでやっている』という感じがすごくありますね。作って終わり、じゃなくて、出荷した先のことまで見えるから、たくさん刺激も受けています。自分たちの野菜が使われているレストランに行ってお客さんの顔を見ると、変なものは作れないなと思うし、地元で消費されているんだという実感も沸きますね」

「農事組合法人FENNEL(フェンネル)」という一つのグループとして、ヨロ研の生産部門を担う農家メンバー。取引先とは年に2回、作付け会議を開いて要望を聞き、誰が何をどれくらい作るのかを決める。2カ月に一度開かれるヨロ研の定例会では、作物の状況や品質管理、今後の販売についての話し合いがなされる。フェンネルでは毎週月曜に打ち合わせがあり、その週に出荷する野菜や出荷先などを確認している。仲卸との価格交渉も、もちろん自分たちでする。

 今はどんな野菜があるのかと、メンバーの畑まで様子を見に来る熱心なシェフもいる。取引先のレストランにメンバーと連れだって食事に行くと、メニューには「ヨロ研野菜」という固有名詞が使われ、シェフが野菜について客に説明しているところや、客が野菜を「おいしい」と言って食べているところも目の当たりにする。お互いの顔が見える相対取引を通じて、関根さんは「作れば売れる」という手応えを感じるようになった。

「今まで輸入でしか手に入らなかった野菜の中でも、鮮度が落ちるのが早い葉物に対する需要は高いと思います。シェフと直接話すことも多くなって、自分が作る野菜を欲しがっている人がいっぱいいるんだとわかり、励みになっています」

 現在は35アールほどを一人で作付けしているが、さらに需要が増えれば、スタッフを雇用して面積を増やしていきたいと語る関根さん。ヨーロッパ野菜を作るようになって、野菜とより真剣に向き合うようになったという。

「今欲しいものはなに? と聞かれたら、耕運機とか定植機って答えちゃうと思います(笑)。以前なら、お金があれば遊びに使いたいと思っていましたが、今は、仕事がもっとやりやすくなるものに使いたいですね」

緑・白・赤の3色のオクラ

上向きに実をつけるミニパプリカ

サラダやつけ合わせのアクセントになるゴルゴ

本場に負けない品質の野菜が、店の売りに

 JR武蔵浦和駅から徒歩2分。ランチタイムにイタリアンレストラン「トラットリア・アズーリ」を訪ねると、店の前には順番待ちの列ができていた。

 この店のシェフは、伝統的なイタリア料理に、地元産の食材をふんだんに盛り込むことで知られる阿部正和さん。農家メンバーの畑に足繁く通うシェフの一人だ。その料理を口にした客の多くが、まず野菜のおいしさに驚くという。

トラットリア・アズーリのシェフ・阿部正和さん
トラットリア・アズーリのシェフ・阿部正和さん
 

「店内で使う野菜のほとんどが、ヨロ研野菜です。ヨーロッパ野菜は普及してきてはいるものの、日本ではまだなじみのないものも多いので、『この野菜はなんですか』とお客さんによく聞かれます。興味をもっていただけるのは、料理人としても農家さんとしてもうれしいことですね」

 ヨロ研発足前は、本場に近い料理を出そうとすれば野菜は空輸するしかなかった。輸送コストがかかるうえ、葉が黒ずんでいるなど鮮度が良くないものも少なくなかった。ヨロ研のメンバーが生産を始めた当初は、栽培技術が未熟で使い物にならないものもあったが、近年その品質は本場と同等レベルか、それ以上だと阿部さんは太鼓判を押す。

「たとえば、生産法人の名前にもなっているフェンネルは、育てるのが難しいこともあり、最初はえぐみが強すぎて、とても生では食べられませんでしたね(笑)。今は本当にみずみずしくて甘みもあり、香り高いものを作ってくれます。野菜のバリエーションも増えました。ナスはフィレンツェだけでなく、白ナスやフェアリーテイルまで作っているし、ラディッキオ(赤チコリ)も3種類あります。イタリアで最高級といわれるタルディーヴォというラディッキオの品種は、リゾットには欠かせません。ここ数年で品質が上がり、苦みの中にも甘さを感じられるようになってきました。発足当初とは比較にならないほど、技術が上がっています」

 フィレンツェ、ラディッキオ、セルバーティカ(ルッコラの一種)など、この日も十種類以上のヨロ研野菜がテーブルを彩っていた。畑で朝収穫した野菜を、数時間後にランチで出す。それができる地の利を生かし、埼玉のイメージを変えたいと阿部さんは語った。

「イタリアではどの州に行っても、その土地でとれた野菜を大事にしています。地産地消が浸透していて、レストランでも地元産の野菜が絶対出てきます。“ダサイタマ”と言われたりして、埼玉県人は地元への愛着が薄い人が多いですが、産地と消費地が近いことは大きな魅力だとぼくは思っています。“食の街”という新しいイメージを作っていきたいですね」

ヨロ研野菜をふんだんに使ったトラットリア・アズーリの料理
ヨロ研野菜をふんだんに使ったトラットリア・アズーリの料理
ヨロ研野菜をふんだんに使ったトラットリア・アズーリの料理

 

さいたまヨーロッパ野菜研究会
問い合わせ https://saiyoroken.jimdofree.com

トラットリア・アズーリ
問い合わせ https://trattoria-azzurri-musashiurawa.gorp.jp/ 

【特集】さいたまヨーロッパ野菜研究会:

  • 第1回 高温多湿の日本で、高品質のヨーロッパ野菜ができる理由 ~生産農家・小澤祥記さん
  • 第2回 朝とれた野菜がランチのテーブルに並ぶ“食の街”埼玉 ~生産農家・関根一雄さん、レストランシェフ・阿部正和さん
  • 第3回 キーワードは「郷土愛」。ヨロ研成功の2人の立役者 ~株式会社ノースコーポレーション・北康信さん、公益財団法人さいたま市産業創造財団・福田裕子さん
執筆者プロフィール

成見智子(なるみ・ともこ)
ジャーナリスト。東京都出身。大学卒業後、旅行情報会社の編集・広報担当を経て独立。東南アジアの経済格差問題をテーマに取材活動を始め、2010年からは地域農業の現場取材をメインとする。日本各地の田畑や食品加工の現場を訪ね、産地や作物の紹介、6次産業化・地産地消の取り組みなどの現状をリポート。


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