SDGsランキング “日本一” のまち<br />川越市が描く「地方都市」の近未来 第2回

時の鐘

 埼玉県内で最初に市制がスタートした川越市は、2022年には市制100周年を迎える。圏央道も近く、都会と田舎の要素をバランス良く内包する「トカイナカ」として、注目度も高い。モノと人の流通を変える圏央道エリアのポテンシャルを探りつつ、近未来型の地域の在り方を示唆する川越市をフューチャーしてみた。

文=福﨑 剛(ジャーナリスト) 写真=北村 崇

魅力ある“トカイナカ”

 埼玉県・川越市は、2020年1月に発表された「市版SDGs調査2020」(株式会社ブランド総合研究所)( 第1回を参照)で、日本一に選出された。最近では田舎と都会の要素を併せ持つ魅力のある「トカイナカ」としても注目されている。前回に引き続き、川合善明市長のインタビューから、人気の川越市の現在から未来を見据えてみよう。

地域づくりを支える圏央道

 川越市は、もともと江戸時代から城下町として栄え、この地域一帯の経済の中心でもあった。その名残を感じさせる古い建物や蔵はいまでは観光地として親しまれている。しかし、それだけでは地域の発展は望めない。

「人口減少、少子化、高齢化の中では、衰退する地域もあるでしょうが、交通や流通の要所となる圏央道が近くにあることは、有利なことですし、周辺地域との連携を取ることで、魅力あるまちを維持できるだろうと考えています」

 川合市長の考える川越の近未来の鍵は、近隣地域との連携にあるという。人口減少時代における日本の将来を考えた時に、東京圏の一極集中から分散型ネットワーク構造に変換することが求められている。そこで自立性の高い拠点的な都市として、川越市は「業務核都市」に位置づけられ、業務機能を整備育成することが期待されているのである。市長はさらに話しをつづける。


川越市長 川合善明氏
1950年生まれ、川越市出身。1979年から弁護士として活動し、2009年に川越市長として初当選。現在3期目

「圏央道の内側については外から、さまざまな企業が拠点を構えたいニーズがあるようですが、市内の7割が調整区域で、開発には制限があります。しかし、2022年には、約17ha規模の増形地区産業団地がオープンする予定なので、地元の雇用も含め活気づくことを期待しています。そういう意味では、今後も産業団地のような産業拠点を増やす方向を考えたいと思います」

 増形地区産業団地に移転する企業はまだ決まっていないが、研究機関や製造業からIT通信業の企業まで参入する分野は幅広い可能性があり、地元の期待は高まっている。圏央道や関越道の道路ネットワークからモノと人が動くことで、地域経済がより活発化するのは間違いないだろう。

バランスのいい産業構成の川越市

 川越市内の農業、商業、工業は、バランスのとれた産業構成になっている。

 例えば、農業をみてみよう。総農家数は、1970(昭和45)年の5633 戸から2015(平成27)年の2943戸へ減少している(農林水産省「農林業センサス」調べ)。農家の高齢化、後継者不足問題の課題は、どこでも同じだ。ただし川越市の場合は、大消費地の首都圏が近く、また地域ブランドとしての付加価値アップもまだまだ見込める。農産物の産直販売や特産物の育成など、展開次第では活性化する可能性も大きい。

 商業では、卸売業や小売業の従業者数や店舗数は、減少傾向にある。例えば、商店街では経営者の高齢化で空き店舗が増えている状況もあり、地方の商店街が抱える課題に直面している。そこで、古民家をリノベーションして起業しやすい環境を提供するなど、新店舗のオープンなどに関して市もサポートしてきたのである。また、観光業と結びつけ、滞在時間を長くするイベントや魅力的なツアーコースの企画についても、官民の協働によって新たな展開に向けて広げている。

 さらに工業では、川越市は埼玉県下で常に上位の製造品出荷額等を有している。川越狭山工業団地、富士見工業団地、川越工業団地、川越第二産業団地等にある企業は、製造品出荷額等において高い割合を占めている。主に、化学系の先端産業や業務用の機械器具製造産業が集積している。さらに増形地区産業団地が加わることで、市内外の産業集積にも影響を与えるのは言うまでもないだろう。

 また、川越市内に企業が増えれば、職住近接がすすみ、市外からの移住や定住率アップにも貢献しそうだ。

川越市主要交通及び工業団地等一覧

出典:「川越市産業振興ビジョン(平成28年度〜平成32年度)」(川越市)より

 そして、古くから発展してきた城下町としての面影を伝える蔵造りの街並みや時の鐘など、歴史的な建造物が保存され、いまでは観光資源になっている。1999(平成11)年には、蔵造りの街並み周辺が国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている。2019年には、国内外から年間700万人もの観光客が訪れるほどになったのである。地元のまちづくり運動からスタートし、その結果として観光による賑わいの創出を実現した好事例でもあるのだ。

 農業、工業のほか、観光業でも注目を集める川越市は、首都圏のベッドタウンの中では、独自の住環境を提供し、街の住みやすさや住み心地などのランキングでも上位に名前があがる。子育てがしやすい街としても知られるが、暮らしやすい環境の背景には、産業構成が偏らずにバランスのよいことや自然環境が残っていることも大きいと考えられるのである。

街中には古民家を利用したカフェやゲストハウスが点在する

ポテンシャルの高い圏央道「トカイナカ圏」

 川越市は交通の要衝として栄えてきた。公共交通として、約30分で都心と結ぶ鉄道網は、JR 川越線、東武東上線、西武新宿線の3 路線が伸びており、2013(平成25)年に鉄道5 社による相互直通運転が開始されたことで、利便性は一段と高くなった。気軽に新宿三丁目や横浜へ足を延ばすことができるようになったのである。例えば、横浜・中華街まで乗り換えなしで往来できることで、これまでの移動範囲が広がり、よりアクティブな行動をする市民も増えただろうと想像できる。

 一方、道路網は、南北方向の軸として関越自動車道と国道254 号があり、東西方向の軸として国道16 号があるほか、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の開通により、横浜、厚木、八王子、川越、つくば、成田、木更津などの都市をシームレスに結ぶことになった。しかも東名高速道路や中央、関越、東北、常磐の各自動車道との連結もスムーズだ。こうした道路ネットワークが発達することで、モノと人の移動が格段に活発化する。

 川合市長の先ほどの言葉を思い出してみよう。「交通や流通の要所となる圏央道が近くにあることは、有利なことですし、周辺地域との連携を取ることで、魅力あるまちを維持できるだろう」と、川合市長は語った。ここで圏央道が近くにあることが有利と発言したのは、経済活動の上でのことであるとともに、行政サービスの提供の上でのことも含む。周辺地域と連携することで、地域内の各種機能をコンパクトに集約し、行政サービスを補完できる可能性もあるからだ。

 これは国土交通省の「コンパクト+ネットワーク」の考え方だが、圏央道を結ぶ地域では、「トカイナカ圏」として捉えてもいいだろう。圏央道があることで、近隣地域との対流によって人も経済も動くために、大都市圏に依存する必要もないというわけだ。それぞれの地域が自立できるようになれば、東京一極集中は解消され、交通の要衝が起点となって、近未来の都市の在り方をリードすることも考えられる。自然の残る田舎であっても交通の要衝としてのポテンシャルがあるのだ。


「連携中枢都市圏」を参考に筆者作成

 つまり、圏央道エリア全体で大きなメリットを享受できるという期待がある。これまで首都圏との物流の動脈として道路網が活用されていた一面があるが、圏央道による東西の都市との連携を強化することで、周辺地域全体を活性化させる可能性が広がった。

 例えば、産業団地と隣接する主要幹線道路があれば、新たな企業誘致や新産業のインキュベートにも有利になる。要するに、近未来は、都心ではなく、圏央道エリア周辺にある川越が新産業のインキュベーションシティとして発展することも十分に考えられるのである。ここにポテンシャルの高さが感じられる。

 トカイナカ圏で、新たな産業が興隆、発展すれば、これまでの時間をかけて通勤・通学をする生活スタイルも変わり、テレワークが定着することで、働き方も住まい方も大きく変わるだろう。

「『住むことに誇りを持ち、住んでよかったと思えるまち』となるよう、魅力あるまちづくりを進めていきたいと考えています」と川合市長が市役所のメッセージで語っているように、川越市はトカイナカ圏として、これからますます新たな輝きを増すことが大いに期待できるのである。
(つづく)

【特集】SDGsランキング“日本一”のまち川越市が描く「地方都市」の近未来:

執筆者プロフィール

福﨑 剛(ふくさき・ごう)
フリージャーナリスト。東京大学大学院修了(都市工学専攻)。マンション管理、景観保全のまちづくりなど、都市問題に詳しい。
福﨑 剛氏
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